Interview

TICAD9特別インタビュー「共に考え、共に動く」

2025年8月4日
miako kanetani with team members

世界最速で人口増加が進むアフリカ。多くの若い労働力を抱え、膨大な成長ポテンシャルを秘めつつも、気候変動による被害の甚大化やエネルギー・アクセス、食料安全保障などの開発課題も多い。そうしたなか、8月20-22日に横浜で開催される第9回アフリカ開発国際会議(TICAD9)に向けて、外務省アフリカ部の堀内俊彦部長にアフリカの開発協力に対する取り組みや想いをうかがった。

(聞き手:IFC東京事務所長 横山正)

Toshihiko Horiuchi

――まず、アフリカの現状をどうご覧になられていますか。

2050年には世界人口の4分の1をアフリカが占めると言われています。しかも、若い世代が多く、日本をはじめ世界とビジネスを展開したいという強い意欲を持っています。その一方で気候変動などの外的ショックに弱く、人間の安全保障上の課題も多い。さらに公的資金も不足しています。アフリカの持続的な繁栄には民間資金の動員や国内資本の活用が不可欠です。

 

――全く同感です。アフリカは世界銀行グループが最も注力する地域の一つで、アフリカへの投融資額は地域別最多となる約380億ドル※に達しています。では、アフリカの潜在性を解き放ち、経済社会発展に欠かせないものは?

まずは雇用の創出です。若年者の失業が増加する中、アフリカでの世論調査で、多くの国の関心事項のトップは「雇用」となっています。それは、私自身もアフリカの方とお話しする際に実感します。今回のTICAD9でも「雇用」は重要なテーマのひとつで、雇用を生み出す民間セクターの役割に期待しています。

※世界銀行年次報告書2024

 

――世界銀行グループも「雇用の創出」を戦略の最優先に掲げており、民間セクター開発を担うIFCも資金動員の拡大を目指しています。民間企業の成長には資金調達が鍵になりますね。

その通りです。先日、アフリカの企業の方々とお話しする機会がありました。「ビジネス上の最大の課題は何か」と尋ねたところ、全員が「金融アクセス」と答えました。「とにかく借り入れができない、金利が高すぎて借りられない」と。資金調達がビジネス展開の最も大きな障壁になっていることを改めて痛感しました。地場銀行の与信力と、IFCの資金動員力を合わせ、そこに日本がうまく絡むことができれば、こうした課題を解決できるのではないかと思います。


Emi3


「現地の方々から『日本人は一緒に考えて、一緒に行動してくれる』とよく言われます。それはかつて日本も非常に苦しい立場にあり、そこから脱するために国際社会のパートナーシップの恩恵を受けてきたからではないでしょうか。アフリカでは、明治維新や第二次大戦後の復興を知っている方も多く、日本に好意的なイメージを持っています。これは日本の大きな強みだと思います」


――私たちも現地の金融機関への投融資はもちろん、アドバイザリー業務を通じてその与信力を高める能力開発支援も積極的に進めています。アフリカ企業の資本不足を補うエクイティ投資も拡大しており、今後は組成した案件に、他の投資家を呼び込むような分配機能も強化していきます。

先の国会でJICA法が改正され、JICAの海外投融資業務における金融手法が拡充されました。JICAの海外投融資を触媒として使い、レバレッジを利かせることで、公的資金とそれ以外の資金のベストミックスを図っていきたいと考えています。そのためにも、IFCを含め世界銀行グループとの「共創(co-create)」「協働(co-work)」がますます重要になると考えています。

IFCとJICAはすでに多数の協調融資を実施しており、2017年以来総額30億ドルを超える規模となっています。これは大変素晴らしい成果です。加えて、IFCが持つ民間セクター支援のノウハウや実績、そしてJICAが持つ資金ツールや日本企業とのネットワークといった強みを持ち寄ることで、より多くの案件を発掘し、民間資金を呼び込んでいくという好循環が生まれることを期待しています。

 

――民間企業の債券投資などでもJICAとの協働の余地が広がると期待しています。そして開発支援には国際的な協働も不可欠です。日本政府としてTICADに込めた想いとは?

TICADは1993年の開始以来、30年以上にわたりアフリカの開発を牽引し、方向転換の局面において重要な役割を果たしてきました。人材育成、民間セクター主導、質の高いインフラ、人間の安全保障といったいくつかのテーマを掲げ、アフリカ開発に関する国際議論を主導してきたという自負があります。日本とアフリカという2国間ではなく、マルチな機関を含めて一緒につくりあげてきたことも大きな特徴です。今回のTICAD9のテーマは「革新的な課題解決策の共創」です。アフリカを主体者として、さまざまなパートナーと共に解決策をつくりあげようと呼びかけていきます。世界銀行グループには共催者として伴走していただき、心から感謝しています。

 

――具体的にTICADではどのような効果を期待されていますか?

TICADは共創や協業を進めるための「プラットフォーム」であると同時に、それぞれの良いものを持ち寄って共有する「ショーケース」でもあります。日本には優れた技術、サービス、商品、スキル、倫理観などを有する企業がたくさんあり、こうした力を活かした海外展開を後押ししていきたいと考えています。それには、現地の日本企業や第三国の企業との連携も欠かせません。外務省では、現地の大使館に第三国連携を支援する「経済広域担当官」を配置しています。「メイド・ウィズ・ジャパン」を掲げてアフリカ諸国に向けて課題解決を共創していくことを呼びかけつつ、JICA Biz」、「インパクトファンド」なども活用していただくよう、後押ししていきたいと思っています。


横山正 IFC東京事務所長

IFC東京事務所長 横山正


――IFCも年内に「東京ビジネス・ディベロップメント・ハブ」の新設を予定しており、日本企業の知見や資本を現地パートナーとつなぎ、アフリカの成長を後押ししていきたいと考えています。日本は2023年に開発協力大綱を改定し、「オファー型」という能動的な支援も打ち出しました。

「オファー型協力」は従来のODAに加え、その他の公的資金や民間資金の動員も促しつつ、日本の強みを生かした魅力的な協力メニューを相手国に提案していくものです。相手国と「共創(co-create)」していくというアプローチです。

日本は「オーナーシップ」「パートナーシップ」というキーワードのもと、アフリカ自身が主導する開発を後押ししてきました。日本が現地で高い評価を得ている理由は、現場に人を派遣し、同じ目線で課題に向き合い、人材を育てるところから一緒にやってきたことです。これからもこうしたスタンスで、人材育成やインフラの維持管理、教育・保健などの社会サービス分野を支援していきたいと考えています。
 

――現在、開発協力は厳しい局面を迎えていますが、日本政府としてはどうお考えですか。

世界的に安全保障環境や財政事情が厳しくなる中で、開発協力は逆風にさらされています。しかし、日本政府としては引き続き多国間協力や開発協力の重要性を強く訴え続けていかなければならないと考えています。皆さんに思い起こしていただきたいのは、「かつて日本も助けられる側であった」ということです。新幹線や黒部ダムなども世界銀行の支援を受けている。そういう過去を踏まえ、「日本だけでなく、世界にとって好ましい国際環境とは何か」を考え、理解していただく努力を日本政府としても続けていく必要がある。そのためにも世界銀行グループにも、ぜひ力を貸していただきたいと思っています。


Emi3


(右)堀内俊彦 外務省中東アフリカ局アフリカ部長(大使) 1990年に外務省入省後、アフリカ諸国やフランス大使館勤務を経て、2020年にはアフリカ連合日本政府代表部の特命全権大使、2023年より現職。

(左)横山正 IFC東京事務所長


 

アフリカにおけるIFCと日本のパートナーシップ

アフリカの発展を後押しするため、IFCは最貧国や脆弱国も含めた幅広い国とセクターで投融資とアドバイザリー・サービスを実施しています。日本の政府や企業、公的機関とも、信託基金や協調投融資などを通じて連携しており、それぞれの資金力と専門的知見を結集して成果の最大化を図るなど、極めて重要なパートナーシップ関係を築いています。

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