積み上げられたあらゆる色や色調の糸巻きや布地が、ボルガン・ルカヴァセンドが営む仕立て専門店に彩りを添えている。ボルガンは、一時も休むことなくハサミと針を動かし、注文品を仕立てていく。モンゴル最大の市場であるナラントール・マーケットの業者が、ボルガンが作る伝統的なモンゴルの民族衣装の主な顧客だ。
これまで20年間、ボルガンのビジネスは常に順風満帆というわけではなかった。しかし、今年初め、モンゴル政府が新型コロナの感染予防策として厳しい措置を取ったことにより、ボルガンはモンゴルの首都ウランバートルにある店を閉めざるを得なくなった。「今回は今までとは違う」とボルガンは感じた。
ボルガンの不安は的中した。新型コロナの世界的な大流行で、モンゴルの貿易と経済がかつてない圧力にさらされ、小規模企業がとりわけ甚大な被害を受けた。ボルガンが3人の従業員のうち2人を一時的に解雇しなければならなくなったのは、それからまもなくのことだった。
幸運なことに、ボルガンの顧客、そしてモンゴル最大のマイクロファイナンス機関であるトランスキャピタル社(Transcapital LLC)が彼女を支えた。この結果、大半の企業が大幅な収益減少による苦境に喘ぐ中、ボルガンは市場低迷の影響を免れることができた。
能力を構築し、スキルを高める
新型コロナの世界的な大流行の影響を乗り切るには、資金面やビジネス面の強靭性が不可欠だ。トランスキャピタル社との強いパートナーシップにより、ボルガンは困難な状況に備えることができた。
2015年、仕事道具の老朽化が進み、ボルガンは仕立ての品質を保つのが難しくなってきていた。機械を新しくして、事業を拡大したいボルガンには資金が是が非でも必要だった。しかし、残念ながら既存の住宅ローンと事業規模から、銀行は彼女への融資を躊躇していた。
モンゴルの首都ウランバートルで働く作業員たち。写真:デイヴ・ローレンス/世界銀行
万策尽きたその時に、トランスキャピタル社のフィナンシャル・アドバイザーがボルガンのもとを訪れた。ボルガンの返済能力と潜在的収益を審査した後すぐに、同社は彼女に200万トゥグルグ(700ドル強)を融資した。商業銀行と異なり、同社は零細企業固有の状況を融資判断の際に考慮する。たとえば、借り手の信用力を審査する際に、多くの銀行が正式な会計記録の提出を求めるが、トランスキャピタルは手書きの会計帳簿も受け付ける。
少額ではあるものの、ボルガンはこの融資で高性能のミシンと安価な備品を充分に購入することができた。そして、ボルガンは緻密な縫製技術に一段と磨きをかけ、まもなく収入は2倍以上となり、3人の女性を雇うまでになった。
トランスキャピタル社は、資金の提供に加えて小規模企業の経営者に研修も行っている。ボルガンは、この研修で適切な収益管理がもたらす利点や、融資を期限内に返済することで低コストの資金調達が可能性となることを学んだ。さらに、商品の質と資金流動性の双方を確保するため、コストと価格の算出手法も新たに学んだ。
IFCは、トランスキャピタル社をはじめとするマイクロファイナンス機関と世界レベルで連携し、研修、能力構築、リスク管理などを含む事業活動のあらゆる側面に、借り手を保護し過度の負債を防ぐための措置とともに責任ある融資慣行を組み込む取組みを進めている。
ボルガンは将来に向けた準備を進めており、現在は、シングルマザーでもある3人の従業員のために通勤に便利な住宅施設を探している。小規模な衣料関連企業にとって、職場の高い賃料も大きな問題の一つである。彼女は、自身のような起業家に対する政府からの家賃支援は、より質が高く手頃な価格帯の商品を作る一助となるだろうと語る。
トランスキャピタル社への支援は、途上国、なかでも最も困難な市場にある企業や雇用の維持を目的とした、IFCの新型コロナ対応策の一環で行われている。IFCは、パンデミック対応策を講じるにあたり、資金が貧困層や脆弱層に確実に届くよう努めている。また、投融資に加え、IFC は今年初めに、20億ドルのファストトラックによる貿易金融プログラム下において、モンゴルのパートナー銀行の貿易信用保証枠を拡大している。
2020年11月発行