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アフリカの女性起業家たちを支える「成功の素材」

2024年11月4日
セネガルのトゥーバでBaobab GroupのJappoプログラムチームが主催した女性向け説明会(写真:Baobab Group) セネガルのトゥーバでBaobab GroupのJappoプログラムチームが主催した女性向け説明会(写真:Baobab Group)

概要

  • 一部の推計によると、アフリカの女性の起業家の割合は約24パーセントと世界で最も高いが、彼女たちは依然として多くの障害に直面している。
  • 銀行をはじめとする金融機関や開発金融機関は、女性起業家を支援するための様々な取り組みを行っている。
  • 「She Wins Africa」や「Sourcing2Equal」などのプログラムは、女性がビジネスを成長させるために必要な研修、ネットワークの構築機会、そして市場へのアクセス機会を提供している。

文:ジェーソン・ホップス

 

ナイロビから北へ1時間ほどの場所で、晩秋の太陽がマカデミアナッツの殻やもみ殻、花の茎、おがくずに覆われた畑を乾かしている。

何週間も激しく降り続いた雨の後、暖かな青空は数百万のケニア国民に安堵をもたらした。その中には、再生可能燃料ビジネスを手掛けるEcochargeの創業者でCEOのメアリー・ニャンブラの姿もあった。

Ecochargeは、農業廃棄物を選別し、乾燥・圧縮することでバイオマス(生物資源)由来の練炭に再生する。50キロ単位で袋詰めされた練炭は、ケニア中の家庭や学校、事業者に販売され、環境に優しく、経済的な暖房・調理用燃料として利用されている。

「過去最悪の雨だった。原料を乾燥できず、生産を停止せざるを得なかった」とニャンブラは話す。2019年に設立されたEcochargeは、年間2万トン以上の練炭を販売するまでに成長した。同社を率いるニャンブラは当時を振り返り、「ようやく現在は乾燥と加工を再開でき、事業も上向いてきた」と語る。

ニャンブラほどの有能で経験豊富な女性経営者でも、天候ばかりは思い通りにならない。しかし、長年の努力を通じ、資金調達や契約獲得といった事業の命運を左右する他の要所は確実に押さえてきた。

「女性経営者ということで真剣に取り合ってもらえなかったこともあったが、そうした偏見への対処の術も身に着けてきた。シングルマザーの母に育てられ、女性がどれほど苦労を強いられるかは身に染みてわかっていた。常に自立していたいと思っており、そのために、とりわけビジネスの世界では自らの立場を貫くことが大切だ」と彼女は話す。

再生可能燃料ビジネスを手掛けるEcochargeの創業者兼CEOのメアリー・ニャンブラ(写真:Ecocharge) 再生可能燃料ビジネスを手掛けるEcochargeの創業者兼CEOのメアリー・ニャンブラ(写真:Ecocharge)

 

高いハードル

アフリカ全土では、何百万人もの女性が大小さまざまなビジネスを手がけている。その姿は、ハイテク企業のCEOから、街角のいたるところで木製の屋台を構えて果物や野菜を売る「ママ・ムボガ」(現地の言葉で「野菜売りの女性」)まで、実に多様だ。

一部の推計によると、アフリカの女性の起業家の割合は約24パーセントと世界で最も高い。これは正式な雇用機会が限られていることが一因だが、同時にアフリカの女性たちが自ら活路を切り拓いていることの表れでもある。

アフリカの女性起業家たちは、最近になってようやく起業や事業成長を支援する制度を利用できる環境が整いつつある。それでもなお、根強い偏見や時代遅れの法制度が彼女たちの前に高いハードルとなっている。

世界銀行グループの報告書「女性・ビジネス・法律2024年版」では、女性の活躍を阻む様々な障壁が指摘されている。そこでは、最富裕国を含め、男女間の完全な機会均等を実現した国は世界に一つもないとされている。

アフリカでは女性が、育児支援へのアクセス、同一労働同一賃金の未達成、職場でのハラスメントなど様々な課題に直面している。また、一部の国では、住宅ローンなどのローンの申し込みや起業手続きの際に、女性は夫や男性パートナーの連署がいまだに求められる。

これらは女性の起業やキャリア形成にとって大きな制約だ。2024年発表の同報告書によれば、アフリカ諸国は近年、男女平等を推進する法整備において世界トップクラスの進展を見せているものの、制定した法律の確実な施行は依然として大きな課題となっている。

「女性の経済参画を促進することは、彼女たちの発言力を高め、女性に直接関わる意思決定への影響力を強める上でカギとなる」と、女性・ビジネス・法プロジェクトのマネージャーで同報告書の著者でもあるティー・トランビックは指摘する。「アフリカの女性起業家は特有の課題に直面しており、その実態と影響を正確に把握することが解決策を見出すための重要な第一歩になる。」

 

さまざまな施策を動員する

アフリカの民間セクターで女性の機会均等を推進するのは複雑だ。

それもあって、銀行をはじめとする金融機関やIFCなどの開発金融機関は、多様で深刻な課題に対処するためには解決策もまた同様に多様で効果の高いものでなければならないとの認識のもと、女性起業家を支援するために様々な施策を展開している。

「IFCでは女性の金融アクセス拡大はもちろんのこと、特に建設業や製造業といった伝統的に男性が中心となってきた分野において、研修やネットワーク構築の機会、市場へのアクセスの提供も進めている。そこではパートナーとも協働し、より大きなインパクトの実現を目指している」とIFCのアフリカ地域のジェンダー・リードであり、She Wins Africaプログラムのコーディネーターも務めるアン・カブギは話す。

こうしたパートナーの1つがBaobab Groupだ。同グループは西アフリカ7カ国で数十万の小規模ビジネスに金融サービスと研修を提供しており、特に女性起業家の支援に力を入れている。

例えば、セネガルでは、同グループのCredit Jappoプログラム(Jappoは西アフリカの言語のひとつ、ウォロフ語で「一緒に」の意味)を通じて、石けんや紅茶などの農産物を生産・販売する協同組合や団体の女性に資金を提供している。

「女性は男性に比べ貯蓄意識が高く、起業家精神も旺盛なため、当社にとって重要な顧客層だ。女性が十分な金融サービスを受けられていない現状を鑑み、彼女たちの起業や事業拡大を支援することに決めた」とBaobab Groupのジェネラル・セクレタリーであるエルヴェ・ギヨンは語る。

一方、IFCはナイジェリアのAccess Bankと提携し、女性起業家たちに不可欠な財務・経営スキルを教える6カ月間のミニMBAコースを提供している。

ガーナの起業家マウセ・ジスンは、2020年に女性農業従事者グループを支援するSommalifeを設立し、現在では約10万人の農民(うち92パーセントが女性)とのネットワークを築いている。彼女にとって、このミニMBAでの研修は投資家からの資金調達や事業拡大に大いに役立っている。

「女性への否定的な固定観念を乗り越えて成功するために、人一倍の努力が必要だと理解していた。研修やネットワーク作りは非常に重要だ。女性の経済的エンパワーメントに情熱を持っており、自分が学んだことを他の女性たちにも伝え、起業や事業拡大を後押ししたい」とジスンは語る。

 

Women entrepreneurs in Africa Ecochargeは、農業廃棄物を選別し、乾燥・圧縮することでバイオマス(生物資源)由来の練炭に再生している。(写真:Ecocharge)

 

Sourcing2Equal

ナイロビにあるIFC事務所では、女性起業家たちがそれぞれの事業拡大に関する課題について議論している。この後、彼女らはアフリカで事業を展開する大企業と面会し、より規模が大きく複雑な契約を獲得するために何が必要かを学びながら、サプライチェーン上でのビジネスの可能性を探っていく。

これは、IFCが主導するSourcing2Equal(S2E)の実際の活動の様子だ。S2Eは、2019年に女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)およびノルウェー政府とのパートナーシップのもとで立ち上げられ、女性起業家がアフリカやその他の地域における企業の調達活動を通じて、新たな市場機会を得られるようにすることを目的としている。

「世界の小規模ビジネスのおよそ3分の1は女性によって立ち上げられている。一方、女性経営のビジネスが、大企業や政府の調達額で占める割合は1パーセントにも満たない」とカブギは言う。「女性が仕事をやり遂げられることは明らかだ。あとは、それを証明するための支援と機会が必要なだけだ。」

Ecochargeの創業者メアリー・ニャンブラも、2022年にS2Eに参加した起業家の一人だ。

「Sourcing2Equalは、ビジネスをよりプロフェッショナルな形に整えるうえで非常に役立った」とニャンブラは振り返る。「重要なスキルを習得し、常勤の会計士を雇う必要性にも気づいた。また、大企業と取引する方法を学ぶために、他の女性起業家とのネットワークも広げることもできた。」

 

Her Fintech Edge

デジタル技術によって金融包摂が進み、金融サービスへのアクセスは広がった。農村部や遠隔地に暮らす人々もスマートフォンを使って取引を行ったり、市場情報にアクセスできるようになった。

しかし、アフリカでは女性のスマートフォン保有率やインターネットへの接続率が男性よりも低く、国連の報告書によれば「デジタル・デバイド(情報格差)」が依然として根強く残る。

IFCとコンサルティング会社Dalbergがアフリカ諸国を含む17カ国のフィンテック企業を調査してまとめた報告書「Her Fintech Edge」によれば、これら企業の顧客に占める女性の割合は平均25パーセントに満たず、女性向けの商品やサービスを提供している企業は全体の3分の1にとどまる。

見方を変えれば、フィンテック企業は男女別のデータ分析をもとに構築したビジネス戦略によって女性市場を開拓し、金融包摂のさらなる促進に貢献できるということだ。

さらに、多くのフィンテック企業は、女性顧客が男性よりロイヤルティが高く、リスクも低く、男性と同等かそれ以上に価値のある顧客層として認識している。

「これまで、我々は女性がビジネスで成功するために必要な要素として、自信、能力、資本を掲げ、それらに対応した支援プログラムを提供してきた」と語るIFCでジェンダー及び経済包摂を統括するグローバル・ディレクターのナタリー・ガバラは、「しかし、最近では女性起業家を支援するために、コネクティビティ、コミュニティ、ケアにも注力する必要があることが分かってきた。言い換えれば、デジタル接続環境の整備や、相互支援のための女性同士のネットワークづくり、育児支援サービスへのアクセス向上が重要になってくるだろう」と意気込みをみせた。

 

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