Story

e-ライドを求めて

2022年8月13日

文:ジェイソン・ホップス

ナイロビーこの街には、あらゆる物が揃っていると言っても過言ではない。

300万人が暮らすケニアの首都は、多くの人が行き交う活気に溢れた国際都市で、世界各地から芸術家、投資家、観光客、そしてビジネスマンが集う。高層ビルの建築が急ピッチで進み、街中に張り巡らされた高速道路は車とバスで溢れかえり、その多くが黒煙を吐き出している。

そのナイロビで、筆者が目にしたことがないものが、クリーンな電気自動車や電気バスだ。テスラもプリウスもない。最近まで、電動バイクも電動スクーターもここでは見ることはなかった。

しかし、これが変わろうとしている。

筆者は、EVと呼ばれる電気自動車の可能性に、長い間魅了されてきた。EVは、静かでクリーン、そして優雅で、よりグリーンな未来をまさに体現しているかのようだ(言うまでもなく、バッテリーの充電で依然として化石燃料に大きく依存しているが)。

故郷のカナダや、ヨーロッパやアメリカを訪れる度に、EVの普及の速さに驚かされる。最近ロンドンを訪れた時は、利用したウーバーのほとんどが電気自動車だった。友人や家族の多くが、長期的なコストの節約や環境へのプラス面のみならず、その見栄えと走りの良さも理由に、電気自動車を購入している。

これはまさに、テクノロジーの急速な進歩と、政府による補助金、そして世界中の街々に点在する充電ステーションといったインフラ整備の成果だ。

しかし、ナイロビでは話が異なる。アフリカではごく僅かな例外を除き、こうした光景を目にすることはない。そして、これには十分な理由がある。

アフリカの大半の国では、電気代が高く供給は極めて不安定だ。ナイジェリアの国土はドイツの約3倍と広大で、EVの充電やメンテナンスのためのインフラは存在しない。

人口動態と気候変動がもたらす影響

しかし人口動態と気候変動対応が、EV普及の動機づけとなり得る。アフリカの人口は2050年までに2倍増の25億人に達し、生活水準の向上に伴い自動車の数も増加すると予測されている。アフリカの各国政府は、気候変動対応に引き続き膨大な財政負担、医療や社会的コストが生じ、そして化石燃料による汚染要因で自動車が占める割合が拡大していることを理解している。

なぜアフリカではEVの普及が依然として進まないのか、そしてナイロビの道を多くのEVが走る日はいつ来るのか。筆者は、IFCの電気自動車担当シニア・インダストリー・スペシャリストであるカーティク・ゴーパールに話を聞いた。

ゴーパールのEVセクターでの経験は長く、これまでに、電気自動車メーカーで戦略担当を担い、電気自動車の市場開拓に向けコンサル企業やUNDP(国連開発計画)と連携してきた経歴を持つ。

このインタビューでは、2006年のドキュメンタリー映画である「誰が電気自動車を殺したか?」が話題に上った。EVの「死」を嘆くその内容は、時期尚早だったと後に判明することとなった。

ゴーパールは「当時では極めて良くできた映画だった」とこの映画を振り返った。「しかし、公開から20年経たないうちに、先進国では関連テクノロジーの導入が急速に進んだ……。実際、ノルウェーでは既に自動車の80%が電気自動車で、他の国もこれに追随している。」

Tアフリカについて、ゴーパールは、多くの要因が現地での電気自動車革命の妨げとなっていると指摘する。電力へのアクセスと充電インフラという課題に加え、同氏は、電動パーソナルモビリティのペイバックピリオド(回収期間)が長期間にわたることや、アフリカ各国政府による、EV市場を支援するための補助金がほぼ皆無であることも関連していると語る。

しかし、ゴーパールは、決してこれで終わらないと続ける。

同氏は、公共交通機関や物資輸送へのEVの導入が、アフリカでのEV普及の先導役となるだろうとの見解を示した。主要都市で電気バスが普及すれば、関連するインフラやノウハウが、スクーターやオートバイをはじめとする電動パーソナルモビリティのアフリカでの台頭を後押しするだろうと予測している。

二輪車

ナイロビ郊外の巨大な倉庫では、ARCライド(ARC Ride)のスタッフが、数週間後に迫った数百台に及ぶ電動バイクのインドからの到着を心待ちにしてる。

Writer Jason Hopps, left, stands with workers at ARC Ride in Nairobi in its warehouse.
ナイロビのARCライドの倉庫で、新たな電動バイクの到着を待つ同社スタッフと筆者のジェイソン・ホップス(左)。写真:ジェイソン・ホップス/IFC

Affordable(手頃な)、Reliable(信頼できる)、そしてClean(クリーンな)の頭文字を社名に掲げるARCライドは、アフリカを拠点としたスタートアップ企業の一つで、ケニアをはじめとするアフリカの国々でのEV市場の構築に取り組んでいる。将来的に電動二輪車がアフリカの都市部を席巻するとの期待から2020年に立ち上げられた同社は、自社でオートバイの設計をしているが、部品は日本、中国、インドから取り寄せている。研究開発、組立て作業、販売、そしてマーケティングは、全てケニアで行われている。

ARCマネージング・ディレクターのモーゼス・エンデリトゥ氏は「ケニアでは今年、EVの充電スタンドやバッテリー交換ステーションを整備し、4,000台のオートバイを、そして2023年には1万台のオートバイを販売する予定だ」と語る。「ルワンダ、タンザニア、そしてウガンダへ進出する計画があり、部品の現地調達を増やす予定だ。極めて野心的な目標だ。」

エンデリトゥ氏は、とりわけルワンダは、輸入税が低く国営の充電スタンドが増えていることなどから、EV市場として有望だと指摘する。

ARCの電動バイクは、1回の充電で約70キロ(およそ43マイル)の走行が可能で、バッテリー交換も可能だ。同社は、価格の詳細については明言を避けつつも「競争力ある」価格になるだろうと述べた。ケニアでの主なターゲットは、乗客を乗せ街中の至る所を走り回り、渋滞中の車の間をすり抜けて行く、現地で「ボダボダ」と呼ばれるバイクタクシーの運転手だ。

エンデリトゥ氏は「ボダボダの1日の走行距離は最長約140キロだ。我々のバイクであれば、1度のバッテリー交換で十分な走行距離だ」と指摘する。「ナイロビをはじめとする都市部で一連のバッテリー交換ステーションができれば、運転手にとって電動バイクの利用は極めて容易となり、費用も手頃になるだろう。」

ARCライド以外にも、スウェーデンとケニアのテクノロジー合弁企業であるオピバス(Opibus)が、ケニアで提携先のウーバーのドライバーに3,000台の電動バイクを提供し、最近ではバジゴー(Basigo)が、走行距離250キロの25人乗りの電気バスを市場に送り出した。

資金調達モデル

アフリカでEVメーカーが一段と積極的にビジネスを展開する中、投資機会を求める国際開発金融機関や金融機関の動きも活発化している。

その一つが、アフリカ全土でアセットファイナンス業を展開するエム・コパ(M-KOPA)だ。これまでに同社は、ソーラー発電キット、スマートフォンといった商品購入やキャッシュローンのサービス提供を通じて数百万に及ぶ顧客を支援してきた。エム・コパの共同創業者兼CEOであるジェシー・ムーア氏に、EVについて話を聞いた。

「電気自動車、なかでも電動バイクはエキサイティングな市場で、ケニアをはじめとするアフリカの国々で、飛躍的に成長すると確信している」とムーアCEOは熱く語る。「エム・コパは、この市場を支援していく方針で、近々パートナーシップに関する発表を行う予定だ。」

IFCは、アフリカの5つの都市で電動バスプログラム支援の可能性を探っており、また同セクターに関連した輸入税、充電基準、さらにはジェンダーを含めたソーシャル・インクルージョンなどの政策課題などについても研究を進めている。

こうした傾向は、アフリカにおけるEVの明るく力強い未来を暗示している。しかし一方で、電気輸送というコンセプトは、ナイロビではまだまだ目新しい。EVはアフリカで普及するだろうか。馴染みのボダボダの運転手であるニコラス・カーグに話を聞いた。

Boda boda driver Nicholas Kearg.
ボダボダの運転手のニコラス・カーグは、今はガソリンを燃料とするオートバイに乗っているが、電動バイクを是非購入したいと話す。写真:ジェイソン・ホップ/IFC

カーグの1日あたりのガソリン代は、わずか1年前は300シリングだったが、今ではおよそ700シリング(約6ドル)だ。オイルやオイルフィルターといった他の維持費用も含めると儲けは減っており、1日に何度も乗客を乗せて走って、ようやく収支を合わせることができると語った。

筆者から電動バイクの利点を聞いたカーグは、興奮したように話した。

「低い維持費用で、性能が良いオートバイが手に入るなら、電動バイクを選ぶ」とカークは話す。「今現在、生計を立てるのもやっとなので、電動バイクの購入費用が多少高くてもかまわない。電動バイクを買えるのはいつ頃?」

大方の予想では、その日が訪れるのは、それほど先のことではないだろう。

ジェイソン・ホップスは、ナイロビを拠点とするIFCのコミュニケーション・オフィサーである。

2022年4月発行