文:ゲイリー・シードマン
経済が重工業を中心に発展する日々は、次第に終わりに近づきつつある。気候変動による影響が次々と明らかになり、地球に取り返しのつかない被害をもたらす状況を回避するべく、各国政府が緊急措置を打ち出す中、アフリカ経済は、経済発展を加速させる可能性を秘めた、工業のグリーン化の時代を迎える準備が整っているとの指摘がある。
「アフリカの製造業界が、これまでのような生産活動による環境へのダメージを抑制し、製造業の高付加価値化を支える、環境に配慮した建造物や設備の整備や、新たな技術を導入する大きな機会が存在する」とIFCのスーザン・ランド経済及び民間セクター開発担当副総裁は述べる。
歴史的に、製造業の力によって多くの国々が中・高所得国へと急速な成長を遂げた。「アジアの虎」と呼ばれた国々は、経済の近代化から50年足らずで、世界で最も工業化が進んだ国々に名を連ねるまでになった。その力強い成長にによりこれらの国々は、中間層と呼ばれる世界の消費者層40億人の内、22億人を占めるまでとなり、世界の個人消費の40%を構成する。
今後20~30年間で、アフリカの製造業セクターの規模は現在の2倍に達する見込みだ。アフリカ連合の開発の青写真であるアジェンダ2063は、アフリカ大陸を、原材料の輸出国から、現地の資源を活かし現地生産を進めることで新たな富と雇用を創出し、生活水準を向上させる、洗練された生産拠点へと転換させるというビジョンを掲げている。
しかし、採鉱や石油の掘削といった採掘業を除き、現在アフリカにはこれといった製造インフラはほとんどなく、その大半をゼロから構築しなければならない。風力や太陽光といったアフリカ大陸ならではの資源を活かし、バッテリーエネルギー貯蔵システム(現地の潤沢なコバルト資源に依存)などの再生可能エネルギーの新技術を導入することで、アフリカは「一足飛びで開発が進んだ国へと変貌を遂げ、成長著しい低炭素の製造業セクターを新たに生み出す重要な機会を手にしている」と、コンサルティング企業であるマッキンゼーの最新報告書は指摘している。
誰も、これが一夜にして実現するものでも、また実現にかかるコストが安いと思っているわけではない。しかし、アフリカが、環境に配慮した成長を必要とする背景には差し迫った理由がある。地球温暖化により、域内の水不足と食料不安の悪化が懸念されるなど、地球温暖化に対してとりわけ脆弱であることに加え、アフリカの人口は今後30年間で2倍に膨れ上がると予測されている。2050年までに、世界の人口の4分の1、そして2100年までには40%が、この地で生活していることになる。
この人口の増加傾向により、すでに急速に都市化が進んでおり、中間層と言われる大量の若い消費者層が出現するとともに、次なる巨大な消費市場を求める世界のブランドからの関心を集めている。
「アフリカで工業化が進むことは間違いない」と、IFCのシニア・インダストリー・アドバイザーであるジョン・アナグノストゥは語る。「唯一の問題は、これを、いつ誰が実現するかということだ。」
1760年から1840年にかけての第一次産業革命以来、製造業とグローバル・バリューチェーンへの統合が、急速な経済成長と雇用創出の「処方箋」だった。
1960年代、労働集約的な繊維・衣料品製造を中心に「アジアの奇跡」と呼ばれる時代が幕を開けた。アジアの国々が戦後の貧困から脱却し、高度な技術を徐々に取り入れることで、世界の市場で売れるより付加価値の高い商品の生産が可能となった。富の増大に伴い、「奇跡」と謳われた国々は、教育や技術、インフラに投資し、生活水準が向上した。
言うまでもなくその起爆剤となったのは、ヨーロッパやアメリカと比べ低コストな域内の豊富な労働力だった。技術投資、進歩的な貿易政策、投資優遇措置、補助金、経済特区、さらには最新型の貨物コンテナといった輸送分野での革新的な技術に加え、同地域はこの比較優位を活かすことで、世界の工場としての地位を確立した。
しかし、時代は当時とは大きく異なっている。「経済発展は、過去の東アジアで辿った経路とは異なる道を進んでいる」とランド副総裁は指摘する。今日、工場では機械化が進んでおり、じきに低賃金の労働者が多く必要とされない日が来る可能性がある。生産年齢人口が2035年までに約70%増加し4億5,000万人に達すると予測されるアフリカにとって、これは懸念材料だ。
投資により、アフリカの製造業で働くより多くの労働者に研修機会を提供できる。写真提供:ライダー・スティール
AI(人工知能)、ロボット工学、そして現代の世界貿易の発展により、商品生産に未熟練労働者を投入するよりも自動化を進めたほうが、より安価で容易、かつ環境面でも優れていると論じる学派がある。また、一部の経済学者は、途上国は工業化そのものについて懐疑的になりつつあると主張する。
一方ランド副総裁は、異なる見解を示している。「我々は、早すぎる脱工業化が発生していると結論づけるには、時期尚早だと考えている」と語る。最新のデータが、これを裏付けている。2021年11月の世界銀行の報告書は、アフリカにおける「製造業の雇用は、1990年の合計860万人から2018年には2,130万人へと増加した」が、その増加の大半を低スキルの職種が占めていたと指摘する。
「アフリカでは労働コストは安いが、熟練労働者やスキルを備えた労働者を惹きつけることが課題となっている」と、ガーナのライダー・スティール・インダストリーズ(Rider Steel Industries)のワリド・アルアラミCEOは語る。同氏は「溶接工や電気技師、整備士といったシンプルな職種でも人材確保が難しい」と述べ、労働者の技術力向上に向けた研修などの投資が必要だと続けた。
IFCのグローバル・マニュファクチャリング部門前責任者のサビーヌ・シュロークは、アフリカの国々は、アフリカをグローバル・バリューチェーンに組み込むという意味では前進しているが、「主に原材料の輸出と加工品の輸入が中心となっている。これらの国々は安価で大量に輸入できるが、それでは労働者の技術力向上と賃金上昇には結びつかず、製造国がより豊かになり経済の高度化に必要となる能力開発にはつながらない」と指摘する。
「基本的に、地中から採掘したり切り倒した物を輸出しても、アフリカの国々に多くの付加価値をもたらすことはない。しかし、一部の企業が機会を捉え一次産品の加工という分野に乗り出している」と、ランド副総裁は語る。
熟練労働者やスキルを備えた労働者を惹きつけることが課題だ。写真提供:ウェミィ・インダストリーズ
新型コロナによるサプライチェーンの混乱とワクチンの不足(当初、新型コロナワクチンの供給は豊かな国に大きく偏っていた)により、輸入依存型の経済がはらむ脆弱性を再確認したと、ナイジェリアでヘルスケア商品を製造するウェミィ・インダストリーズ(Wemy industries)のポール・アデドイン・オデュナイヤCEOは語る。
こうした状況下で、企業は「商品不足や輸入価格の高騰といった問題を解決するべく、サプライチェーンの現地化を図るなど対応策を講じた」と同氏は説明する。
セネガルのアマドゥ・ホットゥ経済大臣はエコノミストの取材に対し「我々は自立性を高めなければならない」と述べた。2021年10月、セネガルとウガンダは、ファイザー・ビオンテック・ワクチンを開発したドイツのビオンテック(BioNTech)との間で、RNAワクチンのアフリカでの製造に関する合意書に署名した。これは「知識及びノウハウの移転に加え、新たな雇用とスキルをもたらすなど、アフリカの健康安全保障の強化に不可欠だ」と世界保健機構のマシディソ・モエティ氏は語っている。
気候変動による危機は、豊富な鉱物資源を有するアフリカ経済の後押しとなる可能性もある。化石燃料から、よりクリーンで環境に優しい電力を中心とした経済へと移行するのに必要なバッテリーを生産するのに、コバルトや銅といった鉱物資源は欠かせない。世界のコバルトの3分の2を産出するコンゴ民主共和国では、この資源をめぐり企業間の競争も激化している。
アフリカで産業の育成という文化を醸成するには、各国はまずインフラの改善に取り組まねばならないと、経済学者は指摘する。アフリカ大陸は慢性的な停電に悩まされている。約6億人が未電化地域で暮らしており、インターネットへの接続は不安定で、道路は穴だらけであり、空港と港湾は近代化が必要だ。
「道路網が、日々の商品の運搬と原材料の調達の足かせになっている」と、ライダー・スティールのアルアラミCEOは説明する。「港の荷役能力は取引量に追いつかず、パーツや機材の到着が大幅に遅れることも珍しくない。」
経済学者は、安定したインフラを基盤とした経済特区が、雇用創出とアフリカ大陸自由貿易圏がもたらす貿易面のアドバンテージを活かす上で、大きな役割を果たすと考えている。
幸いなことにアフリカは、環境に配慮したインフラを新たに構築する絶好の機会を手にしている。ただし、これに要する費用は決して安くはなく、マッキンゼーは、アフリカが今後域内の電力セクターと製造施設や設備をよりグリーンな手法で交換・改善するには、2兆ドルに及ぶ投資が必要との試算を示している。
2022年1月発行
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