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未来への食料供給―多重危機に立ち向かうIFCのグローバル・フード・セキュリティ・プラットフォーム

12月 12, 2022
IFC長官のマクタール・ディオップは、「民間セクターは、食料不安を緩和し、永続的な解決策を生み出す上で重要な役割を果たしている。この取組みは、サプライチェーンを強化し、人々が安価な食料を栽培し、アクセスできるようにすることで、最も脆弱な地域において強靭な食料システムを構築するのに寄与する」と述べている。

危機的」、「前例のない」、「大惨事」、「悲痛な

これらは、10年以上にわたって世界で最もひどい栄養不良の状態が続く国の一つであるイエメンの食料危機を、専門家が形容した表現のほんの一部である。しかし、20222月のロシアによるウクライナ侵攻とそれに続く戦争は、イエメンだけでなく、イラク、レバノン、リビア、チュニジアといった他の脆弱な国々の将来の食料事情においても、より厳しい見通しをもたらした。

それは、これらの国々が、ウクライナからの食料輸入に大きく依存しているためだ。戦争が引き金となって世界の食料価格が急騰し、農作物の生産、輸出、価格に影響を与えるだけでなく、エネルギーや肥料の価格も世界的に値上がりした。戦争前から既に食料価格は上がっていたが、世界銀行のグローバル・フード・コモディティ価格指数は、2年前と比べて現在は8割も上昇している。世界銀行の一次産品市場の見通し(Commodity Markets Outlook)によると、食料価格は少なくとも2024年末までは危機以前の水準を上回る可能性があり、当面安心できそうにない。

その見通しは厳しいものだ。世界食糧計画(WFP)が活動する81カ国で、2021年に急性飢餓に陥った27,600万人を基準値とすると、これに加えてこれらの国々でさらに4,700万人が急性食料不安に陥る可能性があるとWFPは発表している。

<イエメンのモカにてWFPが支援する移動式栄養クリニックで補給食を食べるアイハム君(20カ月)。写真: WFP/ヘバタッラー・ムナサール>

 

IFC は、食糧安全保障の危機に対応するため、グローバル・フード・セキュリティ・プラットフォームを立ち上げた。この60 億ドルの融資ファシリティは、脆弱なコミュニティを支援し、新興市場への必需品の流通を拡大するとともに、食料不安の軽減に寄与するものである。また、新興国市場における地域の食料システムをより多様化し、持続可能かつ生産的なものにするべく、同ファシリティを通じ、支援を必要とする人々に不可欠な食料品を供給するために貿易金融の継続的な提供や、脆弱な地域の農家へ肥料やその他の必要物資の供給の拡大、さらに食料危機の長期的な解決を図るための民間企業による新規投資を支援する。

複合的な課題への対応

IFC のグローバル・フード・セキュリティ・プラットフォームは、事業の妨げとなっている資金調達の制約や 突発的な経費高騰に直面している農家、一次産品取引業者、食品・飼料加工業者、その他の民間事業者に対する緊急融資を通じて、食料品市場の変動を軽減することを目指している。また、IFC は、ウクライナの農作物の生産と食料貯蔵・加工・物流機能の回復を図るべく、同国の顧客向けに運転資金と長期融資の提供も強化している。

世界の穀物供給がウクライナの戦争によって大きな影響を受ける中、IFC は主要な主食作物の現地生産と、アフリカやアジア市場において従来の小麦代替品生産の商業化の可能性を模索している。

食糧安全保障の危機は、気候変動がもたらすかつてないほどの異常気象によってさらに深刻化しているため、本プラットフォームを通じ、地域の食料システムの生産性と気候変動への耐性を高めるIFCの既存事業を一層加速させていく。

<気候変動に配慮した農業を実践するインドの農家。写真:ブラッドフォード・ロバーツ/IFC>

IFC のグローバル・フード・セキュリティ・プラットフォームは、IFC の現行のアドバイザリー業務、とりわけ農作物の生産手法の改善、小規模農家の能力開発、安全で栄養価の高い食品へのアクセス向上といった分野における活動によって補完される。また、女性の機会を制限し、世界の食料生産量にも制約をかけているジェンダー格差への取組みにも注力している。世界中の女性は、生産性を高め、収入機会を増やすために、技術支援、 金融サービス、能力開発、そして情報にアクセスするためのハードルを乗り越えなければならない。

業界横断的な取組み

IFC のグローバル・フード・セキュリティ・プラットフォームは、食糧安全保障の推進に寄与する様々な業界を支援する。

・アグリビジネス分野では、変動しやすい食料市場の安定化とサプライチェーンの強化を支援する。

・気候変動分野では、本プラットフォームを通じた投融資により、農家の気候変動に対する強靭性の向上、農業による排出ガスの削減に加え、肥料などの主要投入物のカーボン・フットプリント削減に向けたIFCの継続的な取組みを促す。

・革新技術分野では、デジタル技術によって小規模農家の市場や資金へのアクセスを改善し、農作物の収穫量を増やすことで、食料生産の拡大が可能となることから、農業サプライチェーンにおけるデジタル技術の活用を推進する。

・インフラ分野では、食料供給量を大幅に損なう可能性のあるサプライチェーンにおける食品ロスと廃棄を抑制するため、保管と物流の課題に対する解決策に資金提供する。

・製造業分野では、肥料や作物用栄養剤の貿易業者向けに運転資金の支援と貿易金融に関する解決策を提供し、サプライチェーンの問題解消に努める。

IFCのグローバル・フード・セキュリティ・プラットフォームは、世界銀行グループが来年中に食料不安の軽減を図るべく進めている300億ドルにおよぶ取組みの一環であり、IFCによる公共および民間セクターへの関与は、世界銀行およびMIGAと緊密に連携して行われている。

202210月発行