Story

生まれ変わる欧州最大級の未整備な廃棄物埋立処分場

May 17, 2020
Waste pickers work long days diligently collecting recyclable material at the Vin?a Landfill in Belgrade, Serbia, on October 28, 2019. Vin?a Landfill is one of the largest uncontrolled trash dumps in Europe. The city of Belgrade disposes its medical waste, construction waste, and city garbage in the dump. It is currently slowly sliding towards the Danube River with leachate water that is filled with high levels of metal. Photo © Dominic Chavez/International Finance Corporation

文:メラニー・メイフュー/IFCコミュニケーションズ

セルビア共和国、ベオグラード市―ドナウ川の岸辺のスモモの果樹園に向かって、灰色の水が斜面を流れ落ちる。

黒ずんだ水がいくつもの小さな滝を作り、欧州で2番目に長い川に流れ込み有害な影響を及ぼしている。廃棄物の層が幾重にも重なり汚染物質がにじみ出ている。廃棄物のなかには、ベオグラードがこの地に廃棄物を集積するようになった1977年から残っているものもある。現地の環境専門家は、この廃棄物集積所は適切に管理されたことがなく、高濃度の汚染水が流れ出していると指摘する。

このヴィンチャにある最終廃棄物埋立処分場は、欧州最大のオープンダンプ方式(野積み式)による未整備の廃棄物処理場だ。埋立地には毎日、トラック600台分の家庭ゴミ1,500トンと建設廃棄物3,000トンのゴミが運び込まれる。面積は欧州のサッカー場185個分に相当するが、それでも日々運び込まれる新たな廃棄物を受け入れるスペースに限界が来ている。

さらに、ここは水質と大気を汚染する恐れのある環境災害の地でもある。ベオグラードの中心地からわずか15キロメートルで破壊が進んでいる。しかし、これが今変わろうとしている。

 

2019年10月、衛生的な廃棄物埋立場と廃棄物処理発電所、そして欧州連合(EU)の仕様および規格に準拠した建設廃材再処理施設の建設が始まった。3年後、このゴミの山が緑地となり、何十年にもわたり蓄積された廃棄物から排出されるガスを集めて発電する。今後、廃棄物は熱と電気を生み出し、流出水は回収され処理される。

世界銀行グループの一員である国際金融公社(IFC)と多数国間投資保証機関(MIGA)は、べオ・チスタ・エネルギア(BEO ČISTA ENERGIJA)社に対し、総額2億6,000万ユーロの融資および保証パッケージを提供している。同社は、水・環境インフラ世界大手のスエズ社、伊藤忠商事株式会社、そして欧州の投資ファンドであるマルガリータファンドIIが設立した特定目的会社で、このヴィンチャの廃棄物埋立処分場を閉鎖し、新たな処分場と廃棄物処理施設の運営を担う。

IFCの融資パッケージには、カナダ政府とIFCのパートナーシップによる、クリーンエネルギーと気候変動対策プロジェクトへの民間融資を促進するための『カナダIFCブレンド型気候変動対策融資プログラム』からの2,000万ユーロのブレンド型譲許的融資も含まれている。欧州復興開発銀行(EBRD)とオーストリア開発銀行(OeEB)も同プロジェクトに融資している。この案件に関するアドバイザリー業務は、オーストリア、カナダ及びスイスの各政府、ロックフェラー財団と連携して行われた。

この投資はまさに差し迫ったタイミングで行われた。最終廃棄物埋立処分場には40年間に蓄積された1,000万トンを超える廃棄物が積まれており、残されたスぺースはわずか1年分だ。積み重なったゴミの山が、70メートルを超えているところもある。

Vladimir Milovanović, a Managing Director of Beo Čista Energija
ベオ・チスタ・エネルギア社のマネージング・ディレクターであるウラジミール・ミロヴァノヴィッチ氏は、近代的かつ持続的な廃棄物管理方法について語る。

「ベオグラードが新たな廃棄物埋立処分場を建設するぎりぎりのタイミングだった」とべオ・チスタ・エネルギア社のマネージング・ディレクター、ウラジミール・ミロヴァノヴィッチ氏は語る。

専門家は、ヴィンチャの新たな埋立処分場は、廃棄物管理に持続可能で近代的な手法を取り入れることで、今後30年間活用できると予測している。

セルビアの時限爆弾-他の新興市場のモデルケースに

ゴミの山の上に、トラックがさらなる廃棄物を下ろしていく。無数のプラスチック・ボトル、食品廃棄物、壊れたおもちゃなどが捨てられ、何千羽ものカモメがそのなかに飛び込み、餌を食べ糞を落としていく。そして埋立地はますます不潔な状態となっていく。人が鳥に紛れてゴミを掘り起こし、見つけたボトルを取り出しプラスチックの袋に投げ入れる。ゴミ収集車は前進を繰り返しながら、タンブラーが車内に押し込まれたゴミを地面に吐き出していく。収集車が走り去った後には、新たに捨てられたゴミの臭いが立ち込めている。

適切な廃棄物管理が市民と投資家に利益をもたらす

ベオグラードだけではない。世界中の様々な都市が廃棄物管理に関連する同様の問題を抱えている。

世界銀行グループの推計によると、毎年世界中でおよそ20億トンの一般廃棄物が排出されているが、そのうち少なくとも3分の1が環境的に安全な方法で処理されていない。この数字は、2050年までに34億トンに達すると考えられる。廃棄物埋立処分場が、欧州の温室効果ガス排出量の3%強を占めており、その数字はさらに上昇している。

世界の都市や国々は、ベオグラード、そしてパートナーの独自の取組みから学ぶことができるかもしれない。

ベオグラードが解決策を模索し始めた5年前、「我々は、廃棄物管理について全く経験がなかった」とセルビアのマリ財務相は語る。同氏が市長を務めた2014年~2018年の間に、このプロジェクトが計画された。「このプロジェクトを完了するための資金確保の手段のみならず、これを運営するためのノウハウと経験も備えたパートナーを探していた。」

世界全体では、廃棄物管理関連サービスの半分以上を行政が提供している。世界銀行の分析によると、廃棄物の回収と処理にかかるコストは、途上国の地方自治体予算の20%に上る可能性がある。廃棄物管理の問題解決で官民パートナーシップ(PPP)を活用している行政府は、わずか3分の1に過ぎない。


セルビアのベオグラード市がゴミをヴィンチャ廃棄物埋立処分場に捨て始めた1977年から積み重なる何重ものゴミの層から流れ出す汚染物質。

トラクターは、その場所で圧縮しながらゴミの壁をドナウ川の方に向かって押し出し、こうして出来たゴミの壁は地滑りを起こし、時には雪崩のように崩れ落ちる。いつ地滑りを起こすかという日々の懸念に加え、悪臭問題も引き起こしている。2~3カ月ほど前には、不安定に積み上げられたゴミの山が、その重さに耐えられなくなり崩れた。残された20メートルのゴミの崖がメタンガスを排出している。

もう一つの大きな問題がメタンガスだ。不安定で崩れるゴミからは、気候変動を引き起こす温室効果ガスの一種であるメタンガスが発生する。廃棄物処分場の北西の一角では、数カ所から火災が発生し、煙が立ち込める。メタンガスは、酸素に触れることで引火し、埋立地に火災を引き起こす。何日も、2人一組となった作業員が、土を被せて鎮火しようとしていた。

メタンガスや様々な粒子を含んだ煙がスモッグを悪化させ、ベオグラードの地平線をぼんやりと曇らせ、大気の質を落としていた。

「ここは地獄より少しましな程度だ」と、この廃棄物埋立処分場で20年にわたり交通誘導員として働くドラガン・ヴァルガは語る。


セルビア共和国、ベオグラード市郊外にあるヴィンチャ廃棄物埋立処分場で発生したゴミ火災を鎮火するブルドーザー。

廃棄物管理は世界中で課題となっているが、地方から首都に人が集まるベオグラードのような都市ではますます大きな問題となっている。ベオグラードは成長軌道にあるが、環境面での進展が見られず、これが成長の足かせとなっている。

ヴィンチャの埋立処分場は、より正確に言えば適切に処理されることなく廃棄物を積みあげただけの廃棄物集積場だ。これが、このプロジェクトで大きく変化する。

「エコロジーの側面から考えると、ここはセルビアだけでなく欧州の周辺地域にとっても危険な場所だと言える」と、ベオグラードの前市長で現在セルビアの財務大臣を務めるシニーシャ・マリ氏は述べる。

ベオグラードは既に、建設予定地の住民、動物、植物の保護に取り組みつつ、新規の廃棄物埋立処分場の建設準備に着手している。最近まで、現地にはロマ民族の家族17世帯が暮らし、ゴミの回収で生計を立てていた。同市はこれら家族を移住させ、アパートや職探しを支援した。また、鳥類の生息環境や希少植物の保護にも取り組んでいる。

現場が変化を見せ始めた一方で、日々の課題は残っている。日一日と廃棄物は徐々にドナウ川に近づきつつある。廃棄物の川は常に動き続け、処分場では新たに火災が発生し、日々その対処に追われている。埋立地を横切る道路は、ゴミが波のように動くなかで崩壊し、不安定なゴミの山の急斜面に止められたトラクターでしか行けないところもある。

IFCと、マリ氏が率いる当時の市の行政府は、PPPを活用した民間セクターによる財政負担の少ない解決策の可能性について協議した。オーストリア、カナダ、スイスの各国政府とロックフェラー財団の協力を得て進められた4年に及ぶ準備期間の間、IFCは持続可能でバランスの取れたPPPの契約と透明性の高い競争入札プロセスの策定で同市を支援するとともに、それまで試されたことのなかったPPPの法的枠組みの強化にも取り組んだ。2018年、ベオグラード市は、落札者であるスエズ社と伊藤忠商事の共同事業体にPPP契約として本プロジェクトを発注した。両社は共に廃棄物管理と環境面のソリューション・プロバイダーのグローバル・リーダーだ。フランス企業のCNIMがハイテク関連装置を製造し、セルビアの建設コングロマリットのエネルゴプロジェクト(Energoprojekt)社が建設を請け負っている。またMIGAの保証が、政府による保証がなくとも、同プロジェクトの融資返済と投資リターンの確保に関して投資家にを安心感を与える助けとなった。『カナダIFCブレンド型気候変動対策融資プログラム』を通じた革新的なブレンド型譲許的金融商品を利用することで、手頃な料金水準を実現しつつ、プロジェクトのリスク軽減に成功した。

このPPPは、世界初の新興市場における大規模で収益性のある民間セクター主導の廃棄物管理のプロジェクトとなった。

「このPPPプロジェクトは、インフラ問題を効果的に解決し、(市の)財政負担を最小限に抑えられる優れた解決策だ」と伊藤忠欧州会社のジェネラル・マネージャー兼ベオ・チスタ・エネルギア社のマネージング・ディレクターを務める原田光亮氏は述べる。

廃棄物の管理と処理に加え、同プロジェクトでは、廃棄物を熱と電力に変換し、これを販売することで、この新規廃棄物処理施設の建設運営費の一部を相殺する予定だと、IFCの中・南東欧地域マネジャーを務めるトーマス・ルベック氏は語る。


IFCの中・南東欧地域マネジャーを務めるトーマス・ルベックと、廃棄物埋立処理場の近代化プロジェクトについて話し合うセルビア共和国財務大臣、前ベオグラード市長、シニーシャ・マリ氏(右)。

「運び込まれる廃棄物の一部が、負担ではなく資源に変わる」と同氏は述べる。「しかし、このプロジェクトが関与するのは廃棄物管理の最終段階であり、ベオグラード市とその市民も担うべき役割がある。同市、そしてセルビアは、リサイクル率を改善しなければならない。」

ベオグラードは、市全体で最近、容器の分別回収に取り組んでおり、市民にリサイクルを奨励している。

「世界中で市民の廃棄物に関する考え方を変える必要があり、ベオグラードでこれが実際、今起きている」と同氏は続ける。

このベオグラードのプロジェクトは、他国が同様の問題を解決する際の雛型になると、スエズ社のセルビア・カントリー・マネージャー兼ベオ・チスタ・エネルギア社のマネージング・ディレクターであるフィリップ・ティール氏は述べる。

同プロジェクトは、包摂的かつ安全、そして頑強で持続可能な都市の構築に関するIFCの知見を基に発展させたもので、民間セクターを活用しながら、廃棄物管理に関連する喫緊の課題をどのように解決することができるのかを他の都市に示すものだ。

「このモデルは同様の未整備な廃棄物集積所を抱える他の新興市場国や大都市で再現することができるだろう」とティール氏は語る。

セルビアのような国々では、廃棄物埋立処分場の整備が、大気の質の改善ときれいな川の実現につながり、人々のより健康的で持続可能かつ希望に満ちた未来への道を拓くものだと言えよう。

会話に加わる:  #IFCmarkets

2020年5月発行