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新型コロナ危機下のセルビアで経済活動を維持する

August 27, 2020

セルビア共和国は今、分岐点にある。現在の経済成長により所得は改善しているが、EU域内の平均生活水準には追いついていない。EU加盟候補国であるセルビアは、欧州の経済的繁栄の水準を目指し野心的な改革目標を掲げている。政府の「新たな成長へのアジェンダ」では7つの主要分野に注力しており、貿易や国際的な貿易協定に基づく取引慣行の導入も、その目標のひとつである。

取引慣行の中でも極めて重要なのが原産地規則で、物品の原産地に関する協定上の義務が果たされているかを確認する必要がある。物産品が国境を越える前に、税関職員が「事前審査」によって判断する。

セルビアの税関当局の関税部門でアシスタント・ディレクターを務めるソニア・ラザレビッチ氏は、「これまでは、物品の原産地に関する事前審査の申請には数日かかり、貿易業者は申請書や添付書類を、直接税関に持参しなければならなかった」と語る。

原産地規則業務の自動化

いくつかの物品の複雑な原産地規則を簡略化することで貿易量を増やすことができる。セルビアの関税当局はIFCの協力を得て、2019年に原産地規則に関わる業務プロセスを自動化した。操作が簡単な新たなITアプリを使って、原産地の事後証明、認可輸出者、物品の原産地に関する事前審査という三つの主要な業務が可能となった。これらの業務の自動化により、セルビアの貿易慣行は、世界貿易機関の貿易円滑化協定(WTA TFA)などの国際的な貿易基準に一歩近づいた。

IFCチームは、セルビア政府の調達を支援し、現地企業であるセーフネット社と協働して新たなITアプリの設計と導入がうまく進められるように、プロジェクトの立ち上げ時に支援を行った。さらに、ウェブ上の新システムの効果的な導入を図るため、税関職員や民間企業を対象とした研修やワークショップ、ユーザー・マニュアルを提供した。

「原産地規則に関する手続きに新しいITアプリが導入され、貿易に要するコストと時間が大幅に削減された。税関当局もより効果的に輸出入を管理できるようになった」と、ラザレビッチ氏は語る。

税関当局とビジネス双方のメリット

原産地規則業務の新ITアプリによって、税関はより早く、効率的に仕事を進めることが可能となり、貿易業者のニーズにも早く対応ができるようになった。原産地規則に関する申請や要望に対する税関当局の最初の回答までの期間は、94%(32日から2日へ)減少した。同時に、貿易業者から受ける申請数は50%増加している。

事業者は税関当局のウェブサイトから二つの電子サービスに無料でアクセスできる。貿易業者は、必要書類の入手、要望書や添付書類の提出、原産地の事前審査がオンラインで可能になり、提出された要望の処理状況に変更があれば電子メールで連絡を受けることができる。

定期的に貨物を輸出し、法令順守の体制や帳簿システムが整備されていると認められた貿易業者は、認定輸出者の資格を得ることができる。新ITシステムが導入される前は、貿易業者は申請のみオンラインか電子メールで可能だった。今では申請書や必要書類の提出だけでなく、優遇措置を受ける認定輸出者となるための必須要件である原産地規則に関する試験の日程までオンラインで設定できるようになった。

「輸出業務が格段に容易になる認定輸出者の認定を受けることが目標だ。そのために原産地規則の知識に関する試験を受験する。申請は簡単で、たった10分で終わった。」そう語るのは、ライコヴァツにある食品会社のアナリスト、マリヤ・ラジェノビッチ氏。同社は新しい電子サービスの最初のユーザーである。

直近の調査によれば、66%以上の事業者が新たな電子サービスは貿易業務にプラスの効果があったと回答している。申請書や要望書の提出にかかる平均時間は86%(2日から0.28日へ)減少し、2,983セルビア・ディナールかかっていた手数料はゼロになった。

「物品の原産地証明に電子システムを利用した団体の所属企業は皆、新しいシステムの導入によってビジネスがより簡単でスピーディーになったと言っている」と、在セルビア米国商工会議所のディレクター、アマリジャ・パビッチ氏は語る。

税関業務のさらなる電子化に向けた第一歩

現在の新型コロナ危機は、各国政府に行政手続きの電子化や国際的な貿易基準への準拠などの加速化を迫るきっかけとなった。新型コロナのパンデミック下、そしてその後も貿易が停滞することがないよう、IFCは原産地移動証明書の電子署名化や移動証明書をオンラインで確認・認証するツール開発などを通じ、さらなる税関業務の自動化を支援していく予定だ。


当該支援は、貿易円滑化支援プログラム(TFSP)からの資金提供を受けて世界銀行グループが提供している。TFSPは、オーストラリア、カナダ、欧州委員会、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、スイス、米国及び英国から資金提供を受けている。IFCと世界銀行が実施しているこの取組みは、世界貿易機関の貿易円滑化協定(WTA TFA)に準拠した貿易慣行の確立を目指す国々の支援を目的としている

 

2020年8月発行