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新型コロナとの戦いにおけるグローバル対応と地域的影響

October 27, 2020

世界的な危機と戦う際は、地域への影響に注意を払うことが肝要だ。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は、第二次世界大戦後で最も深刻な世界的規模での景気後退 を引き起こした。 発展途上国は大きな打撃を受け、来年までに1億5,000万人の人々が極度の貧困状態に追い込まれる危険にさらされている。

医療危機の状況と経済的打撃の規模は、国によって大きく異なっている。一部の国では概ね経済活動を再開させたが、まだウイルスとの闘いの真只中にある国もあれば、再び感染拡大の波を受けて、経済封鎖に逆戻りした国もある。発展途上国の一部は、同時にコモディティ価格の下落にも見舞われ、経済的にも財政的にも圧力にさらされている。このために各国の政策担当者は国際的な協調を図る一方で、各国の個別のニーズにも注意を払っている。最終的には、開発金融の現場への影響は、最終的に各国レベルで起こるためだ。

パンデミック対応に際し、国際金融公社(IFC)は、対応策の世界的規模と個別事案の適切なバランスを取りつつ、その取組みが持続可能な回復を確実にもたらすように注意を払っている。IFC は総額80億ドルのファストトラック ・COVID-19ファシリティ から既に40億ドルをコミットしており、パンデミックの最中でも企業存続と雇用維持を目指している。この40億ドルは、ファシリティ下で貿易金融支援に割り当てられた20億ドル分の全額と、IFCが展開する全ての地域を対象とする追加的資金の20億ドルからなる。

パンデミック対策の実施に際し、IFCは資金が貧困層と脆弱層に確実に届くよう努めている。これまでにコミットされた40億ドルのうち、48%が最貧国と脆弱国の人々に恩恵をもたらすと期待されている。

以下、IFCがどのように世界各国のパンデミック対策を支援しているかを紹介する。

サブサハラ・アフリカの中小企業を支援する

世界銀行グループがこの25年で初めて景気後退を予測するサブサハラ・アフリカでは、IFCはファストトラック・COVID-19ファシリティを通じ、貿易の底上げと民間セクターの資金需要を満たすため約11億ドルの資金を提供した。

この中には、ケニアとナイジェリアの主要金融機関への合計3億ドルの融資が含まれる。ケニアのエクイティ・バンク(Equity Bank)、ナイジェリアのゼニス(Zenith)、アクセス(Access)、FCMBの各行はこの融資の大半を、新型コロナによる混乱から運転資金と貿易金融の不足に直面している数千もの中小企業への融資に充てる予定だ。

アクセス銀行のハーバート・ウィギー最高経営責任者は「経済的安定の実現には中小企業が重要であることを認識し、これらの企業がこの試練の時を乗り切る十分な資金を確保できるよう特段の配慮をする」と語る。さらに「IFCの融資は、パンデミック下だけにとどまらず、危機収束後も、全業種にわたる顧客企業への資金支援を可能にする。我々とIFCのパートナーシップは、ナイジェリアの企業が新型コロナ危機を克服し、さらに景気回復への道を切り拓く助けとなる」と述べている。

アフリカの店で働く店員
アフリカの店で働く店員 (撮影:ビック・ジョシュ/Shutterstock)

新型コロナ対応策の一環として動員された、国際開発協会(IDA)の民間セクター投資枠 を活用し、IFCはウガンダの病院やクリニックでの医療サービス強化に向けインターナショナル・メディカル・グループ(IMG)に対し、現地通貨建ての長期融資を提供した。これにより同国の低所得の患者に、無償サービスを含め、質の高い医療を提供し続けることを可能にした。CIELヘルスケアの子会社であるIMGは、カンパラ国際病院と17のクリニックをウガンダで運営し、同国で年間30万人を超える患者に医療サービスを提供している。

アフリカの中小企業に、この危機下でこうした融資を含む様々な投融資で支援することは非常に重要だ。というのも、これらの企業が雇用や経済活動、財やサービス、技術提供において重要な貢献をしているからだ。コートジボワールでは、パンデミックにより資金繰りに窮した企業を支援するため、2,800万ドルの融資を同国のNSIAバンク・コートジボワールに提供した。地域レベルでは、通信インフラサービス・プロバイダーの西インド洋ケーブル会社(WIOCC)の安価なインターネット接続をアフリカの30カ国以上で拡張・改善を支援するために2,000万ドルの融資を行った。

新型コロナ危機による経済的打撃はサブサハラ・アフリカでは厳しくなることが予想される。同地域は、当初、医療危機の回避に成功し、称賛されたものの、感染者数はその後多くの国で増加している。

IFCの中東・アフリカ地域担当ディレクターのマニュエル・レイズ・リターナは「アフリカ諸国は現時点までは新型コロナ危機の最悪の事態を回避してきた。しかし、多くの国がコモディティ輸出に大きく依存しており、長引く世界的な景気後退局面においては特に脆弱である」と指摘し、「地域の大手銀行の一部と提携して実行したIFCの緊急支援は、企業の資金繰りを維持し、医療、運輸、農業、製造業といった重要な業種での雇用維持に貢献している」と述べている。

中東・北アフリカでの危機克服を支援する

今回のパンデミックは、健康危機の高まりとともに経済への壊滅的な影響を中東・北アフリカ諸国(NEMA)にもたらした。同地域のほぼ全ての国が2020年に景気後退に陥り、長年の懸案である失業や貧困を悪化させると予想される。

エジプトでは、IFCはファストトラック・COVID-19ファシリティを通じて貿易金融を支援し、企業による食品や製造品の原材料などの必要な物品の輸入を支えている。

IFCのMENA地域担当ディレクターのベアトリス・メイザーは「これはMENAでのIFCの支援策の始まりに過ぎない」と語る。「建設、農業、製薬など複数業種の顧客と協力し、彼らが新型コロナによる影響を乗り切れるように支援している。また、地域経済の回復と将来に不可欠であるデジタル・エコノミー分野での新たなビジネス機会を支援するアドバイザリー・サービスを準備している。」

支援策が進むにつれ、官民の協力体制が重要となる。

エジプトのラニア・アル・マシャート国際協力大臣は、「対策の規模拡大ともたらされるインパクトの適切なバランスをとる上で、新たな思考がかつてなく必要とされている。エジプト政府は、マクロ経済的にも、包摂的成長、雇用創出、経済の多角化、景気回復の支援において重要な要素となる中小企業を支援している。IFCとの提携により、これらの企業の持続可能な成長を確実にするため、融資や助言を含めた包括的アプローチを通じてそれを実現できる環境を整備している」と述べている。


チュニジアの新興企業、ファーム・トラストで働く労働者(撮影:サルマ・アルイ)

アジア太平洋地域での迅速な対応

東アジア諸国は新型コロナが最初に襲った地域だ。ベトナムでその影響が出始めるや否や、IFCはファストトラック・COVID-19ファシリティが立ち上げられる前に同国の4銀行に対し貿易金融の上限額引き上げに動き、2億9,400万ドルに増額された融資額によって、これらの銀行は現地の輸出入業者の支援が可能となった。その恩恵を受けた企業のひとつに、現地女性が経営する農業ビジネス企業のダカオ・プロダクション(DaKao Production Ltd.)がある。ベトナムのTPバンクが融資した資金により、ダカオは生産維持に必要な生カシューナッツを輸入し、400人の雇用が守られた。

この初期のコロナ対応が、のちにファストトラック・ファシリティを通じたアジア太平洋地域の貿易フローと雇用維持を支援する約10億ドルの投融資につながった。

中小企業の事業継続と雇用維持は、IFCのファストトラック・ファシリティを通じて、ベトナムの大手デベロッパーであるフーミーフン開発(Phu My Hung Development Corporation)へ7,500万ドルの融資パッケージを決めた主な根拠だ。300の企業に対し、手頃な価格で建物や商業スペースを提供する同社は、IFCからの資金を自社の顧客企業への支援に活用した。

「危機時に、新興国経済における雇用創出を牽引する企業を支援することはとても重要だ」とIFCのアジア・大洋州地域担当ディレクターのビベック・パサックは語る。「最新予想ではアジア太平洋地域の2020年の経済成長は1967年以来最低の0.9% に留まっており、経済活動を活性化するため地域全域で取組みを続ける。」

アジア太平洋地域の経済減速は、同地域の大きな市場で活動が急激に縮小し、一部の国で資金が逼迫したことにより市場ストレスが発生したためだ。さらに、世界的に広がった封じ込め策は、観光業の崩壊、貿易縮小、グローバル・バリュー・チェーンの混乱、輸出需要の減少を招き、経済的な影響を増幅させた。

ベトナムのバクニン省にあるハネルPT社の工場で働く作業員
ベトナムのバクニン省にあるハネルPT社の工場で働く作業員(撮影:ヒュー・グエン/IFC)

インド、パキスタン、バングラデシュなどの南アジア諸国では、新型コロナは引き続き人命や企業への犠牲を強いている。南アジアはこの40年で最悪の経済状況に陥る可能性があり、数十年に及ぶ貧困削減の成果が脅かされている。今年は1億1,500万人が極度の貧困状態に追い込まれるとの試算があり、その半数近くが南アジアに居住している。そして、資本流出が劇的に増加している。IFCはバングラデシュでパンデミックにより影響を受けた中小企業を支援するべく、同国の大手民間商業銀行であるシティ銀行へ3,000万ドルの融資を行った。 

シティ銀行の上級マネージング・ディレクターのシーク・ムハマド・マル―フ氏は「IFCは当行の外貨建て融資能力とオフショア・バンキングの強化に大きな役割を果たした」と語る。「COVID-19ファシリティ下のワーキング・キャピタル・ソルーション・プログラムによる資金は、パンデミック下でバングラデッシュの国外でも外貨流動性が低下する中、顧客の外貨の資金需要に応える我々の能力をさらに高めてくれた。」

IFCは、南アジアで金融サービス、医療・医薬、農業ビジネス、インフラなど様々な産業分野からの支援要請を受けた。IFCはバングラデシュで2,500万ドルをPRANグループ傘下のモインシング・アグロ(Mymensingh Agro Limited )に融資し、安価で質の高い食料品の生産能力拡大を支援した。これにより、地元農家からの調達を含め、同社のバリュー・チェーンを通じた雇用と経済活動の維持を支援した。

スリランカでは、IFCはセイロン商業銀行(ComBank)に5,000万ドルの融資を行い、同行の中小企業融資の拡大を支援した。融資の半分以上の資金は女性が経営する企業に向けられている。

IFCの南アジア地域担当ディレクターのメンギツ・アレマエフは「中小企業はスリランカ経済の屋台骨であり、これらの企業がこの至難の時期を切り抜けるのを助けるために、今行動することは大切だ」と語る。「我々はインドとバングラデシュの企業にも支援をコミットしており、このパンデミックの影響を和らげるために一層努力している。」

インドでは、IFCはDCMシュリラム(DCM Shriram Limited)に対し、サプライ・チェーンの混乱を和らげ、雇用を維持しながら新型コロナの影響を受けた実体セクターの耐性を強化するために4,000万ドルを融資した。

また、IFCはアジア太平洋地域で、現地の企業や機関、政府と、知見やアドバイスを共有し、このパンデミックの影響をより明確に理解するための支援を行っている。フィージーでは、政府と協力して観光業の中断により打撃を受けた中小企業への影響を分析、さらに地域の年金基金や他の投資ファンドと協働して新型コロナの影響分析に取り組んでいる。

ラテンアメリカ・カリブ海地域での雇用を維持する

ラテンアメリカ・カリブ海地域では、大部分の住民がとてつもない困難に苦しんでいる。世界銀行の最新の予測では、今後予想される経済の縮小が同地域に貧困率の急激な上昇をもたらすとしている。IFCは、ファストトラック・ファシリティを通じ、この試練に満ちた環境の中、民間セクター支援のために12億ドルをコミットした。

多くの家庭は既に日々の稼ぎでやっと生計を立てている状態で、感染拡大抑制対策として取られたロックダウンや自主隔離に対応する資金的余裕はない。労働者の多くが自営業者で、賃金労働者でさえ、非正規雇用はよくあることだ。多くの家庭の重要な所得源で、社会的セーフティーネットとなっている海外からの送金は、世界的に過去最大の落ち込みとなり、2020年は19.3%減少すると予測されている。

「現在の危機対応策の短期的な焦点は、パンデミックによるこの地域の住民数百万人の生活への打撃を緩和することだ。我々は企業が事業を継続できるように支援し、従業員の雇用を守る手助けをしたい」とIFCの金融機関グループでラテンアメリカ・カリブ海地域を担当するリージョナル・インダストリー・ヘッドのアレン・フォルレムは語る。「そのために、我々は金融機関に資金を提供し、地域の雇用と経済活動の最大の担い手である中小企業へ融資が継続できるように支援している。」

IFCは初期対応策の一環として、ブラジルの中規模銀行であるバンコ・デイコバル(Banco Daycoval)に1億ドルを融資し、女性が経営する企業を含む中小企業への資金アクセスの拡大を支援した。また、パラグアイで有力な農業ビジネス会社アルゴフェルティ(Agrofértil)の事業強化のための融資を承認した。この融資は、同国経済にとって重要な農業ビジネス分野におけるパンデミック対策の支援に充てられる。

パラグアイの大豆畑で収穫をするコンバイン機
パラグアイの大豆畑で収穫をするコンバイン機(撮影:ゲザ・ファルカス)

「経済の回復プロセスを速めるためには、顧客との緊密な連携が必要だ。それと同時に、さらに多くの民間投資を呼び込めるプロジェクトを地域内の国々が準備するのを支援することも同じくらい重要だ。効率的な官民協働は、この地域においてかつてないほど重要となっている」とフォルレムは語る。

欧州・中央アジアにおいてビジネスを維持する

新型コロナが西ヨーロッパにも波及した際、欧州・中央アジア地域(ECA)がいずれ大打撃を受けることは明らかだった。中東欧地域との緊密な貿易・金融関係は、ECAを世界で最も大きな影響を受けた地域の一つにした。新型コロナが同地域を襲った際、トルコ経済は2018年の通貨危機からの回復途中だった。金融アクセスの拡大を図ろうと長年苦労していたトルコ企業を、パンデミックはさらに深刻な状況に追い込んだ。

IFCはトルコのガランティ銀行(Garanti BBVA)への5,000万ドルのシニア・ローン供与を通じて、零細・中小企業がパンデミックの影響を乗り切れるように支援している。IFCの昔からの顧客である同行は、調達した資金をトルコの零細・中小企業へ貸し付け、事業の継続や雇用水準の維持ができるように支援している。

 国際通貨基金(IMF)によると、 ウクライナの国内総生産は2020年、前年比7.2%減少する見通しだ。減少幅は、新型コロナの流行期間や、予定されている改革の進捗状況、そして大きな債務返済に向け十分な資金調達力があるかにかかっている。

IFCは、ウクライナの大手農産物加工業者に運転資金を融資し、パンデミックによる食肉生産の原材料サプライチェーンの混乱を抑えるとともに、同国の食料安全保障の確保を支援した。

「我々はこの地域の様々な顧客と、それぞれが最も必要としている支援を提供するため協働している」とIFCのECA地域担当ディレクターのヴィブク・シュルーマーは語る。「トルコの零細・中小企業の資金アクセスを支援して事業継続を可能にしたり、ウクライナの農産物加工業者に事業継続に十分な運転資金を供給して同国の食料安全保障に貢献したりと、我々はこの未曾有の危機の中で、企業が確実に、ビジネスを継続し、雇用を維持し、さらに経済に貢献し続けられるように支援していきたい。」

 

2020年10月発行