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アフリカのミニグリッドに見る、投資家の明るい展望

August 1, 2022

文:デイビッド・ローレンス

長年にわたり、エネルギー開発事業者は、サブサハラ・アフリカで、特に従来の電力網の整備が進んでいない地域では、ミニグリッドが低コストでクリーンな電力をコミュニティや企業に安定的に供給する費用対効果に優れた解決策だと信じてきた。

開発事業者の多くが、民間投資家による投資以前にまず、公的セクターのさらなる改革とドナーによる支援の拡大が必要であり、これが同セクターの急成長の足かせの要因になってきたと指摘する。各国が新型コロナウイルス感染症への対応策を講じているが、これら事業者は、今こそより長期的な再建のためにこうした環境を整備すべきだと考えている。 

ケニア、ナイジェリア、シエラレオネ、そしてタンザニアで、太陽光発電によるミニグリッド事業を展開するパワージェン(PowerGen)のサム・スローターCEOは「ミニグリッドのプロジェクトを後押しするような制度と資金が存在する所で、我々は事業を推進する」と語る。「我々が手掛ける公益事業は、政府による厳しい規制や審査が行われる。多くの規制面・政治面での課題への対応や整備が整っている国は、安心して進出することができる。」


アフリカにおけるミニグリッド

最新のミニグリッドは、太陽光パネルといった発電源と蓄電池、そして配電系統を組み合わせた構造となっており、主に未電化地域の家庭、小規模企業や生産業者に電力を届ける。太陽光発電や蓄電技術などのミニグリッドを構成する主要部分のコストが低下しており、太陽光発電によるミニグリッド・ソリューションは経済的にもより妥当な選択肢となりつつある。この結果、エチオピアや、ケニア、ナイジェリアをはじめとする多くのアフリカ諸国の政府が、グリッドの拡張とホーム・ソーラーシステムを補完するべく、国の電化計画の主軸にミニグリッドを据えつつある。

世界的に見て新興国市場の電力へのアクセスは改善しているが、アフリカは遅れを取っている。「SDG7を追跡する:エネルギー進捗報告2019年版」によると、世界で電力を利用できない人の68%がサブサハラ・アフリカで暮らしており、2017年時点で電力にアクセスできない人の数は5億7,300万人に上る。世界銀行は、2030年までにサブサハラ・アフリカの居住者が、世界で電力を利用できない人の90%を占めると推定している。

規制環境の改善と同セクターの金融アクセスの促進を目指し、開発金融機関やドナー、各国政府との対話を図る業界団体のアフリカ・ミニグリッド事業者協会(Africa Mini-Grid Developers Association:AMDA)CEOのアーロン・レオポルド氏は、この問題の解決策として、より安価なオフグリッド・ソリューションという代替策に比べ、全国規模の電力網の構築あるいは遠隔地への拡張は、コスト高で多くの時間を要する選択だと指摘する。

ミニグリッド・システムひとつで、コミュニティや村、そして規模によっては数千人が暮らす町にも継続的に電力を供給することができる。

こうした小型なシステムが、投資家に大きな可能性を示している。世界銀行が運営する、世界的な知見と技術支援を提供するESMAPの推計によると、2030年までに世界で4億9,000万人に電力を供給するには、21万件のミニグリッド、約2,200億ドルの資金が必要となる。

イメージ:ミニグリッドは通常、太陽光発電を電源としている。写真提供:パワージェン
 

事業の障害となり得るこのような問題が存在する一方で、とりわけアフリカでのミニグリッドへの民間投資拡大の可能性に、大きな期待を寄せる事業者もいる。その背景には、2020年にIFCがアフリカ3カ国で短期的な可能性を調査する会合を開催するなど、国際機関が再び注目していることがある。

一部の事業者は、電力への普遍的なアクセス確保に要する費用を相対的に極めて低く抑えることが可能と考えている。スローター氏は、公的セクターと民間セクターで費用を分担することを前提に、ミニグリッド、ソーラー・ホームシステム、あるいは基幹電力網の延伸など、最も経済的な方法を選択することで、アフリカでは概算で1,000億ドルで5億人に電力を供給できると試算する。

「最も低コストの電化ソリューションを利用した接続1件当たりに500ドルを支給する補助金制度をアフリカ全土に導入することは実現可能な政策目標であり、これにより、この世界的な喫緊の課題解決に要する費用と時間が削減されるだろう」とスローター氏は語る。

世界銀行のシニア・エネルギー・スペシャリストで、エネルギー・セクター管理支援プログラム(ESMAP)のグローバル・ミニグリッド・ファシリティを率いるジョン・エクセルは、ミニグリッドは大きな機会をもたらすと指摘する。

「今後数十年間でミニグリッド・セクターは、まさに一桁違う成長を遂げるだろう」と同氏は指摘する。「テクノロジーや経済のトレンドが追い風となって同セクターの勢いは増しているが、成長可能性を存分に引き出すには、ミニグリッドの開発には従来とは異なるアプローチを取る必要がある。」

川上段階の課題

政府やミニグリッド開発事業者は、投資家もアフリカ全土でミニグリッドの整備を大規模かつ迅速に進められる、より良いビジネス環境を求めていることを認識している。

開発事業者は最大の課題として、認可の取得、ミニグリッド・システムと国の送電網との統合にかかるリスク、そして低金利の現地通貨建て長期融資の欠如などを挙げている。

全国規模で送電網を構築あるいは遠隔地への拡張は、コスト高で時間もかかることから、一部のアフリカ政府は、ミニグリッドを国の電化計画の主軸に据えている。

Building or expanding national grids to remote areas is costly and time consuming, so some government are making mini-grids a pillar of their national electrification plans.
アフリカの一部の政府は、ミニグリッドを国の電化計画の主軸に据えている。 写真提供:AMDA

同セクターが抱える大きな問題の一つが料金政策だ。世界銀行の報告書によると、域内の大半の国で設定されている料金は、コストをカバーするには不十分だ。

「貸手を含め投資家の投資は回収できなければならない」とエナジーシティ(Energicity Corp)の創設者であるニコール・ポインデクスターCEOは述べる。「料金は、投資期間に売電される電力への投資費用を償却する手法であり、優れた料金政策はこれを考慮している。」

ミニグリッド事業者にも、農村地域のインフラ整備にかかる膨大なコストを相殺するための支援が必要だ。

ウィンチエナジー(Winch Energy)のジャック・ホームズ副社長は「将来的にミニグリッドは最も安価な選択肢だが、必要な資金をどのように調達するのかという点から極めて興味深い」と述べた。「アフリカで採算が取れる公益事業はごく僅かだ。オフグリッドについても、オングリッドと同規模の国またはドナーからの支援金が必要となるだろう。」

スローター氏は、農村地域のエネルギー・アクセスは「以前から恒常的に公的セクターからなんらかの形での支援を必要としてきた。これは、カナダ、アメリカ、ヨーロッパでも同じだ。未電化の農村地域でエネルギー・アクセスの確保に必要なインフラを企業が効果的に整備するためには、公的セクターの支援に加え、いかに民間セクターの資本を動員するかが課題となっている。」

多くの政府がこれに同意している。

シェグン・バカリ・トーゴ大統領上級顧問は、再生可能エネルギーとオフグリッドによる電力供給の拡大を目指す国家電化戦略でIFCと連携している。トーゴ政府は、官民パートナーシップ(PPP)案件を通しミニグリッドで発電した電力を300に及ぶコミュニティに供給するための入札を行った。

バカリ上級顧問は、民間投資の加速に向け政府が採るべき施策はまだ残っていると考えている。「今日、トーゴでミニグリッドの利用を促進するにあたっての主な障害が、料金とその価格設定だ」と指摘する。「これらの問題に対処することができれば、さらに多くの民間企業が参入すると確信している。」

ナイジェリアの地方電化庁(Rural Electrification Agency) は、民間セクターの参画を得て、2023年までにミニグリッド1万件を整備し、人口の14%に相当する人々に電力を供給するための取組みを進めている。これと同時に、ナイジェリア電化プロジェクトも実施している。これは、世界銀行とアフリカ開発銀行が連携する5億5,000万ドルのクレジットファシリティで、ミニグリッドとホーム・ソーラーシステムの開発業者に実績ベースで資金を提供するものだ。

地方電化庁のマネージング・ディレクター、アフマド・サリヒヨ氏は「我々は、認可業務の円滑化と環境及びインパクト・アセスメントの促進、さらに土地に関して地方自治体と連携するなど、民間セクター投資を促すような環境づくりを進めている」と説明する。


ミニグリッド・システムひとつで、最大で数千人が暮らすコミュニティに継続的に電力を届けることができる。 写真提供:パワージェン

機会を特定する

2020年4月IFCは、サブサハラ・アフリカにおけるミニグリッド市場の拡大と同セクターへの民間セクターの関心を高めるアプローチについて、IFCと世界銀行の職員によるオンライン・ワークショップを開催した。

IFCの中東アフリカインフラ局でミニグリッド事業開発を主導するヤン・テンヴズは、ミニグリッドに関するセッションを開催した理由はシンプルだと話す。「アフリカでミニグリッド事業を軌道に乗せる魔法のレシピがまだ見つかっていないからだ。」

このワークショップは、ミニグリッドが、未だ約700万世帯が安定的な電力供給を受けられないナイジェリアにとって、費用対効果の高い有望なソリューションだと特定した。ミニグリッドの規制環境が整備されつつあり、農村地域の電力需要も高い同国は、ミニグリッド開発が比較的進んでいる。世界銀行の推計によると、ミニグリッドの投資機会は2030年までに累積で100億ドル超に及ぶが、とりわけ現地通貨建てのデッドファイナンスを実現するための施策が、ミニグリッドを全国的に拡大する上で不可欠となっている。

ワークショップの参加者は、コンゴ民主共和国もまた有望であるとの見解で一致した。同国の電化率は極めて低く、125億ドル規模の投資で電力を利用できない約800万世帯に電力を供給できる可能性がある。しかし、民間セクターの参加を促進するには、まず、安全性、政府の体制、そして金融商品の欠如という問題に対処しなければならないという点で、参加者は合意している。

新たな連携イニシアティブ

国連をはじめとする諸機関と密接に連携し、全世界でのエネルギー・アクセスの実現を支援する国際機関である、万人のための持続可能なエネルギー(Sustainable Energy for All :SEforALL)は、アフリカ全土を対象とするアプローチを採用し、同セクターの規制、計画、資金面のニーズに対処している。

SEforALLのCEOで万人のための持続可能なエネルギー担当国連事務総長特別代表兼国連―エネルギー(UN-Energy)共同議長を務めるダミローラ・オグンビイ 氏は、新型コロナ危機により、電化推進の必要性に注目が集まったと語る。

「計画通りに全ての人に電力を届けるという目標を達成するためには、事態の緊急性を再確認し、新たなアプローチを構築する必要がある。集約型、分散型にかかわらず電力供給には膨大な資金が必要であり、クリーンな調理インフラが不可欠だ」とオグンビイ氏は語る。「プロジェクトの従来の調達モデルは、時間がかかる上に、政府、ドナー、そして現地の事業推進業者に膨大な管理費用の負担がかかる。」

SEforALLとアフリカ・ミニグリッド事業者協会、シェル財団、ロックフェラー財団、世界のドナー国などのパートナーが、マルチドナーの資金調達ファシリティであるユニバーサル・エネルギー・ファシリティ(UEF)の2020年後半の立ち上げに向けて取組みを進めている。UEFはエンドユーザーのエネルギー接続が確認された場合に奨励金を支払う結果ベースの資金提供アプローチを採用する予定である。

「これは、官民そして開発パートナーから、かつてない規模の資金調達が可能になることを意味する」と語るオグンビイ氏は、「クライアントである各国政府と、投資の流入を促す環境を整備するべく、関連する政策から規制、制度の取決めなどで連携している」と続けた。

最新情報: 本ストーリー発表後、検討されたプロジェクトの一部が実行に移された。その一例として、IFC、世界銀行、そしてMIGAは「スケーリング・ミニグリッド」プログラムを通じ、複数国で官民パートナーシップによる投資案件に取り組んでいる。2021年11月、IFCと同プログラム初の参加国であるコンゴ民主共和国政府は、民間投資家から4億ドルの資金を確保するパートナーシップ合意書に署名した。同プロジェクトにより、ムブジマイ及びカナンガの地方都市に発電容量180メガワット相当の太陽光発電設備を整備し、150万以上の家庭、企業、学校、そして病院にクリーンなエネルギーを供給できる予定だ。

2020年6月発行
2022年6月更新