文:オリヴィエ・モニエ
セネガルでは35万世帯が牧畜業を営んでいる。しかし、西アフリカに位置する同国の首都・ダカールの食料品店の棚には、粉ミルクがうず堆く積まれている。その大半がヨーロッパから輸入されたものだ。
こうした店の様子は、多くのアフリカ諸国が抱える、農業生産とサプライチェーンの根本的な問題を如実に表している。
セネガルの酪農業は、生産性が低くサプライチェーンが脆弱であるなど複数の問題を抱えているが、アフリカ大陸各地で、こうした問題が多くの食料生産に影響を及ぼしている。さらに一部の国では、輸送や物流のシステムが脆弱であることに加え、農業資材や融資、土地へのアクセスが限られていることから、これらの問題がいっそう深刻化している。
これらの問題には対策が必要だ。
アフリカでは、平均で労働人口の半数超が農業セクターに従事しており、米や果物、野菜から、紅茶やコーヒー、ココア、バニラまで、質の高い作物を生産している。
その一方で、アフリカの国々の多くが栄養不良という慢性的な問題に悩まされている。国連食糧農業機関(FAO)の推計によると、2019年、アフリカで人口のおよそ5分の1に当たる2億5,000万人以上が栄養不良の問題に直面した。
サブサハラ・アフリカでは、気候変動と共に新型コロナウイルス感染症がもたらす社会面・経済面への深刻な影響により、域内の食品セクターへの圧力が高まっている。サプライチェーンの分断により小売価格がつり上がり、所得の減少に伴い家計が逼迫している。深刻な食料不安の状況下にあった人々は、危機以前で既に1億3,500万人に達していたが、国連世界食糧計画は、2020年末までに世界でさらに1億3,000万人が重大な食料不安に陥る可能性があると警告している。
セネガルをはじめアフリカの各地で、増え続ける脆弱な人々に食料が行き渡るよう、生産を強化すると同時に、輸入依存度を減らす様々な解決策の策定に取り組んでいる。
農業生産の改善に向けた支援は、アフリカのほぼ全ての国に不可欠であるが、同時にこれは、雇用の創出と維持、貧困削減と持続可能な経済成長の実現を支える。
以下では、生産から販売するまでの輸送といったサプライチェーンを中心とする、アフリカの食料安全保障の課題解決に向けたIFCとパートナーの支援事例を3つ紹介する。
1. 生産拡大を目指す:セネガルの酪農業の取組み
酪農業の競争力強化に向けたセネガルの取組みは、生産性の低さや技術力の不足、脆弱なサプライチェーンに阻まれ、現地で生産される牛乳の価格高騰を招いた。この結果、西アフリカの同国で消費される牛乳の大半が、ヨーロッパをはじめとする他の市場から輸入された安価な粉乳を原料としている。
こうした問題の解決に向け、IFCは超高温殺菌牛乳(UHT)の生産と販売で同国第2位の規模を誇るキレーン社(Kirène)と連携し、現地の小規模生産者から高品質の牛乳調達を拡大する助言プロジェクトに取り組んでいる。
エル・ハジ・シセは、セネガル西部の町ディアムニアディオ近郊にあるデバ農場を経営している。© ネネ・S・ディウフ
2018年に立ち上げられた同プロジェクトは、IFCが管理する世界農業食糧安全保障プログラム(GAFSP)の民間セクター投資枠及びキレーン社から主に資金拠出を受けている。このプロジェクトを通し、セネガルの農家は、畜産や家畜の健康管理、適正農業規範、飼料生産や資金管理についての研修を受け、生産性の向上と持続可能なビジネスモデルの構築に取り組んでいる。
また、セネガル西部の遠隔地で協同組合を2つ設立し(組合員数は合計200人以上)、小規模農家のための新たな機会を創出している。
農業規範の改善により、キレーン社に生産物を供給している農場のなかには、2年以内に生産量が倍増したところもあった。ファティック州の郊外で生乳の購入を一元的に行うキレーン社の集乳施設は、現在、新たに設立されたこの2つの協同組合と契約交渉を進めている。
交渉が成立すれば、農家が年間を通し生乳を売ることができるようになり、キレーン社の供給と農家の所得が増大することが期待されている。
キレーン社のジブリル・セック乳製品担当マネージャーは「このプロジェクトは、農家の起業家精神の育成に貢献している」と語る。「これらの遠隔地で酪農を営む農家の大半にとって、生乳の生産はビジネスではなく、家族内の営みであった。新たなシステム導入に伴い、彼らは乳製品の生産に集中して取り組むことができ、安定した、より多くの定期的な収入を手にすることができるだろう。」
さらにセック氏は、同プロジェクトの最終的な目標について「新鮮な牛乳は、粉乳を加工した還元乳より栄養価が高く、セネガルの市場でより質の高い牛乳を普及させることも目標だ」と説明する。
2. 貿易体制を強化する:エチオピアにおける貿易促進支援プログラム
食料安全保障は、食料の安定供給の確保にとどまらない。食品、そして生産に欠かせない資材の輸送には、信頼できる物流体制が不可欠だ。
1億1,000万人が暮らす内陸国エチオピアでは、人口の85%が農業に従事しており、必要な農業資材を必要な時に確実に入手できることが極めて重要である。
アフリカ東部に位置する同国は昨年、140万トン以上の肥料を輸入した。海に直接面していないため、エチオピアは輸入の際には隣国ジブチの港に頼らざるを得ない。生産目標を同国が確実に達成するにあたって、物流が重要な役割を果たすことは明らかだ。
標準レベルに満たない物流管理に加え、効率性の問題と両国の政府機関の連携の欠如によりジブチの港が混雑し、必要不可欠な商品の流れを大きく妨げている。
首都アディスアベバの南約70キロに位置する、エチオピア最大のドライポートであるモジョ・ドライポートで足止めされている積荷。© アバーテ・ダムテ/KoraImage.com
エチオピアのティラフン・カサフンIFC民間セクター・スペシャリストは「エチオピアでは、単に港に到着する膨大な積荷を輸送するトラックが不足しているケースが多かった」と説明する。
その結果、輸入された肥料がエチオピアの農家に届くのは、6月から9月半ばまで続く雨期に入ってからとなることもしばしばであった。
IFCと世界銀行は、エチオピア貿易促進助言プロジェクト(Ethiopia Trade Facilitation Advisory Project)を通じ、ドライバルク貨物輸送の管理の見直しを行った。チェーン全体を通し貨物の扱いを1つの物流業者が一元管理する体制の導入を支援し、混乱と遅れの軽減に取り組んだ。
この取組みは、また当局が貨物の港湾到着を予定通り進めるのにも役立っている。
「この事前に計画されたタイムラインに沿って、小麦などの食料が秋に輸入される。その後、物流業者は肥料を輸入して、雨季が始まる前の6月に肥料が確実に農家に届くように取り組む」とカサフン氏は説明する。
この試験的な取組みは既に将来につながる成果を上げている。農家は最も必要な時により速やかに肥料を入手できるようになった。
エチオピアでは、2018-2019年期に110万トンの輸入肥料の通関手続きに9月中旬までかかり、その大半が、雨季に入ってしばらくしてからの到着となった。しかし、2019-2020年期では、同量の肥料の手続きを5月までに完了した。
3. 家庭を支援する:ケニアのトウィーガ・フーズの取組み
最終的に、一般世帯が手頃な価格で栄養価の高い食品を享受できているか否かが、食品サプライチェーンの健全性を確認する最善の方法である。
食品流通デジタル・プラットフォームを運営するトウィーガ・フーズとIFCとのケニアでの連携は、「農場から食卓まで」の工程で、テクノロジーによる円滑化と迅速化が可能となることを示している。
2014年に立ち上げられたトウィーガ・フーズのプラットフォームは、携帯電話の技術を利用し、ケニアの農村地帯の1万7,000戸以上の小規模農家と都市部の8,000を超えるインフォーマル(行政指導下にない)小売業者をつなげている。
このプラットフォームを通じ、小売業者はケニアの農家に新鮮な農産物を注文し、これをトウィーガ社が配達する。これにより、農家は複数の仲介業者を介することなく、公正で透明性の高い市場にアクセスし、より高い価格で取引することができる。
ソコ・イェトゥ・アプリを使って注文を受ける。写真:トウィーガ・フーズ提供
サプライチェーンの効率性向上により、消費者もトウィーガ・フーズが日々扱う130トンに及ぶ農産物の価格低下という恩恵を受けている。収穫後損失も改善され、インフォーマル市場では通常30%の損失率が、わずか5%程度に抑えられている。
2018年に、IFC及びGAFSPの民間セクター投資枠からトウィーガ・フーズに投融資を行うとともに、現在はケニア最大の農産物国内流通業者となったこのスタートアップ企業に対し、食品安全対策の強化と商品が農家から消費者に渡るまでのトレーサビリティの徹底においても支援を行っている。
これは、アフリカのテクノロジー・セクターにとって将来有望な進展であり、アフリカの人々の食料安全保障の向上に資する喜ばしい一歩であると言えよう。
2020年12月発行