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インド・ダンガドラ-コマル・サヌラと彼女の家族は毎年、他の多くの塩農家と同じように、地下水から塩をとるためにインドのグジャラート州に位置する小カッチ湿地まで移動する。アラビア海からの海水が引く9月は、地下に大量の塩水が残る。この時期に、何世紀にもわたり塩農家として働く「アガリヤ」と呼ばれる塩農家の人々がこの地を訪れ、毎年、新たに溜まった塩水から塩を作るためにやってくる。

アガリヤの大半が女性であり、彼女たちがまとう色鮮やかなサリーや、スパンコールが散りばめられたサルワール・カミーズが、地割れした殺風景な地面に美しく映える。ここに集まった家族は、麻袋やビニールシート、竹竿から簡易な家を作り、9月から4月まで働く。仕事は過酷だ。まず塩水を地下から汲み上げるための井戸を掘る。手作業で土を堀りおこし、浅い長方形の塩田を作る。灼熱の太陽の下でゆっくりと塩水を蒸発させ塩を集める。その後、塩田を熊手のような道具で大きな塩の結晶になるまで耕し続け、それを彼女たちが手で集める。

Ramesh Dudiwadia, a salt pan worker, inspects his salt in Little Rann Off Kutch, India.
インドの小カッチ湿地で塩をチェックするラメッシュ・ドゥディワディア。

「朝起きると塩田に行き、1日中働く。辛い仕事だ」とサヌラは語る。

インドの塩の最大76%がこの地で作られている。しかし、アガリヤの人々が手にするこの労働への対価は、何世代もの間変わることなくごく僅かだ。必要な機材も自分たちで購入しなければならない。塩農家が得る報酬は、塩1トン当たり平均でわずか150インドルピー(2ドル10セント)であるにもかかわらず、市場では1トン当たり1万7,000ルピー(239ドル)で取引されている。彼らの収入の大半は、仲買人たちに搾取されてしまうのだ。さらに、平均的な家庭で、年収の約60%が、地下の塩水を塩田に汲み上げるためのポンプに使うディーゼルエンジンの燃料費で消えてしまう。この年間にかかる燃料費が、担保となる物を何も持たず、塩の生産期以外に収入がないアガリヤの人々が、貧困と債務の終わりなき連鎖から抜け出せない大きな要因となっている。

 

 
インドのグジャラート州の小カッチ湿地まで毎年移動する生活を、塩農家は何世紀も続けている。アガリヤと呼ばれる人々の中でも特に女性が、地下水から塩を収穫するために毎日懸命に働いているが、何世代にもわたり貧しいままだ。ソーラーポンプの技術は、こうした女性農業者が重労働の対価としてより多くの収入を得て、夢を実現する支えとなる。

映像:ステファン・バッケンハイマー

最近まで、塩農家は仲買人や金融業者が設定した価格を受け入れるしかなかった。しかしここ数年、200万人以上の女性加盟者を有する労働組合のインド女性自営労働者連合(Self-Employed Women’s Association :SEWA)が、アガリヤの人々の実情に合った低金利の融資を推進している。日本政府の支援を受けて、IFCは、低利での融資手段を可能にするべくSEWAとインド最大手銀行の一つであるバローダ銀行(Bank of Baroda)との連携を支援した。それまで、商業的条件で融資を受けることができなかったSEWAに加盟する1万5,000人の女性塩農業者全員が、今はこの融資を利用できるようになった。

Salt pan workers celebrated during the closing remarks of an IFC event and site visit in Little Rann Off Kutch, India.
小カッチ湿地でのIFCのイベントと現地訪問を締めくくる結びの挨拶を聞き、歓喜の声をあげる塩田で働く人々。

SEWAへのIFCの技術面及びアドバイザリー業務を通じた支援によって市場ベースの融資が実現したことで、SEWAの会員たちは、コストの高いディーゼルエンジン・ポンプに替わり、費用対効果が高く持続可能な太陽光を使った水ポンプの導入を進め、1万2,000人以上の人々の生活が大きく変化した。2018年、SEWAのソーラー灌漑プロジェクトは、(カーボン・オフセットの)ゴールド・スタンダード認証を受け、同プロジェクトの最初の1年でポンプ700台を設置し、1万9,000トン分の炭素クレジットを自主的に販売した。これにより、女性の塩農業者に2万5,000ドルの追加収入がもたらされた。まもなく炭素クレジットの2回目の発行が行われる予定だが、その恩恵を受ける女性農業者は1,200人に上る。2020年後半で設置されたソーラーポンプの数は4,000台を超えた。最新の推計によると、これにより、SEWAの会員は燃料費を44%削減、塩の生産量は30%増え、平均総所得も33%増加した。SEWAは、この融資を2023年までに塩生産に従事する会員1万5,000人全てに広げることで、より持続可能な塩の生産手法を導入するとともに、塩農家への公正な所得分配を実現できるよう取り組む予定だ。

安定した金融の未来を創る

過去10年間で、インド国民の生活水準が向上した。2011~2015年で9,000万人以上が極度の貧困から脱した。しかし一方で、依然としてアガリヤの人々をはじめとする1億7,600万人が貧困生活を強いられている。SEWAが促進するアガリヤのニーズに合った低利融資により、この独特な暮らしを営む人々にかかる負担を軽減することが可能となる。

IFCのインド担当カントリー・マネージャーであるジュン・ジャンは「IFCは、アガリヤへの融資金利を13%から4%まで下げたことが、最も大きな貢献と言える」と語る。また、返済は通年ではなく、塩の生産期のみ分割で行われる。

Energy from solar panels, pump up salty groundwater into salt pans as the sun sets in Little Rann Off Kutch, India.
夕日に染まるインドの小カッチ湿地の塩田。ソーラーパネルから得た電力で地下水を塩田に汲み上げている。

この低利融資で購入したソーラーポンプは、瞬く間に利益をもたらし始めた。たとえば、サヌラの家族はソーラーポンプを使い始めてから、支出をおよそ3分2、そしてディーゼルエンジンの燃料を1,600リットル削減することができた。ソーラーポンプを使用している家庭の1シーズン当たりの節約額は、平均約5万5,000インドルピー(793ドル)に上る。ソーラーポンプの融資は、SEWAの支援により実現した政府補助金も使い、2年以内に分割返済し、完済後は、サヌラは所得の増加分を必需品の購入や子供たちのために使う予定だ。

インドでは晴天が年間約300日に達し、日射量も多い。このことから、SEWAのヒーナ・デイブ地方担当者は、ソーラーポンプが「塩の生産過程においてディーゼルに完全に取って代わる」有望な解決策となると語る。また、ソーラーポンプは、閑散期(4月~9月)には現在ダンガドラ近郊に建設中のSEWAが所有・運営管理する2.7メガワット級の太陽光発電施設に売電し、有効活用を図る。

脆弱性への対応策

貧困と限定された就業機会という問題を抱えるアガリヤの人々は、有事の際には収入が途絶えがちになるなど、危機に対して脆弱な環境にある。新型コロナによる公衆衛生の危機でインドで厳格なロックダウン(都市封鎖)が断行され、塩の取引業者から支払われる月々の前払金で生活する塩農家は所得を失うリスクにさらされた。新型コロナの感染拡大で多くの取引業者が地元の村に戻り、塩農家が前払金を払ってもらえない事例が多発したのだ。

SEWAと地区の行政担当者との連携により、深刻な経済面への影響は回避することができた。SEWAは、塩農家が食料の配給を受けられるように地方政府の関係者と密接に連携を図り、収穫した塩を市場へ届けられるよう、移動許可証の取得でも調整を行った。

Komalben Rajnik Rapucha, (right) and Hansaben Rameshbhai Dodivadiya (left), salt pan workers, maintain and repair the banks of salt pans in Little Rann Off Kutch, India.
インドの小カッチ湿地の塩田の土手を整備し修理する、コマルベン・ラジュニク・ラプチャ(右)とハンザベン・ラメシュバイ・ダドゥバディア(左)。

塩農家であるガリ・ベン・ターコルは「輸送手段がなければ、今年収穫した塩が無駄になってしまうところだった」と話る。「SEWAが、地元の行政機関の支援を得て、収穫した塩を市場に運ぶための輸送サービスを手配してくれた。おかげで、パンデミックの間でも生活できるだけの利益を確保することができた。」

塩農家は他の面でも脆弱性を抱えており、現在SEWAはその対策に取り組んでいる。塩農家は、たとえばサイクロンなどの気象災害の影響も非常い受けやすい。サイクロンの強風により、塩と土が混ざり合うことで、収穫した塩の質が低下し、価格も下がる。それがアガリヤの人々の収入の減少を招く。SEWAの融資制度は、気象災害被害を受けた塩農家の支援もしており、SEWAは気象関連の警報情報も提供している。さらに気象変化に起因する所得変動への対応策として、政府に対し、麦の生産と同様に塩の生産を農業の一形態として認めるように働きかけている。これが実現すれば、政府は、米をはじめとする多くの農作物と同じように、塩の最低価格を保証することができるようになる。

同時に、SEWAはアガリヤの人々の生活の安定性の向上を支援するため、住宅と教育の改善にも取り組んでいる。現在検討中のプログラムの一つが、モジュラー型のプレハブ住宅の購入支援で、この住宅は閑散期にアガリヤの人々が暮らす村に運ぶことができる。さらに、SEWAは、親が塩田で働く8カ月間も子供たちが教育を受けられるよう、教育施設の建設も模索している。 

SEWAとIFCの連携の歴史は長く、はじまりは15年以上前のSEWAマネージャー・スクールの設置支援にまで遡る。IFCによるSEWAへの初の支援となった同プログラムは、意識改革やエンパワーメント、技術的スキル管理などに関する60の研修モジュールの作成と80万人以上の女性への研修実施でSEWAを支援するとともに、8万5,000人の女性と彼女たちが属するグループによるマイクロ企業の新規立ち上げを支えた。2019年には日本政府がこのパートナーシップに加わり、IFCは現在2025年トランスフォーメーション・プログラムの実施に向けてSEWAと協働している。これにより、コマル・セヌラのように、より多くの起業家が一段と大きな機会を手にすることができると期待されている。

会話に参加する:  #IFCmarkets

2021年3月発行